九州医事新報社 - 地域医療・医療経営専門新聞社

岡山大学病院 病院長 金澤 右

岡山大学病院 病院長  金澤  右

 新年あけましておめでとうございます。2020年は、年初には想像もしていなかった新型コロナウイルス感染症が蔓延し、私たちがかつて経験したことのない激動の年となりました。

 岡山大学病院も多くの新型コロナウイルス患者さんを受け入れ、職員が力を合わせて治療に当たってまいりましたが、いまだに先行きの見えない状況が続いております。そのような中、2021年の見通しを語ることは、大変難しい状況にあると言えます。

 しかしながら、私たちはこの大変な期間を過ごす中で、さまざまなことを学んでいることも事実です。例えば、私自身は会議出席のために年間数十回の東京出張をしてきましたが、この3月から全く出張をしていません。だからと言って、会議の機能が大幅に損なわれることはないようです。

 また、週に3回程度の会食をしてきましたが、それもなくなりました。週末行事がなくなり、土曜日の朝は散歩、日曜日の朝はテニスを毎週楽しむようになりました。結果として、肝機能、脂質の値が正常化しました。多分、医療者でもそのような方々は多いのではないでしょうか。つまり私たちは、新型コロナ以前には「過剰」な投資をして時間、体力、そして金銭を消耗してきたとも言えます。

 一方、これらの社会的抑制は、多くの産業にダメージを与えました。私たち医療界はもちろんのこと、観光業、飲食業、交通業がその最たるものでしょう。これらの産業は、私たちに喜びをもたらしてくれる重要な産業ですが、実は、基盤が非常に脆弱であるということが示されたわけです。

 通じて私が感じたことは、基本的な産業構造の変革がないと、このような大規模感染症災害には耐えられないこと、また、生産力全体が8割に落ちたとしたら、8割に落ちたなりの生活を社会全体として平等に受け入れることも大事ではないかということです。

 人口減少の中、医療においてもサイズダウンが求められることは必須です。どのように上手にサイズダウンしていくかが、今後の大きな課題になると思います。それを苛烈(かれつ)な競争とするのではなく、上手に調整して何とか均等に行っていくことが国民や医療従事者の幸せにつながると思います。また、医療構造の変革がないと、今後起こり得る大規模感染症災害には対応できないでしょう。

 行政の専門家からみたら所詮は素人考えかもしれませんが、新型コロナウイルス災害の決着がついた果てには、コロナ以前を目指すのではなく、コロナからの「学び」を生かした社会を目指したいものだと思っています。

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