九州医事新報社 - 地域医療・医療経営専門新聞社

ネットで対応策を共有 地域の認知症をサポート

ネットで対応策を共有 地域の認知症をサポート

高知大学医学部 神経精神科学教室
數井 裕光 教授(かずい・ひろあき)

1989年鳥取大学医学部卒業。
兵庫県立高齢者脳機能研究センター(現:兵庫県立姫路循環器病センター)、
大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室講師などを経て、2018年から現職。
大阪大学大学院医学系研究科精神医学分野招聘教授兼任。

 認知症のさまざまな症状のケアに悩む人たちが、お互いの情報を共有するコミュニティーサイト「認知症ちえのわnet」。その研究代表者である高知大学医学部神経精神科学教室の數井裕光教授に、開発に至る経緯やその活用法、そして高知県における認知症診療の現状について聞いた。

─「認知症ちえのわnet」を開設した理由は。

 認知症の症状には、物忘れなど認知機能の低下と、怒りっぽい、幻覚・妄想など周囲の人との関わりの中で起きる行動・心理症状 (BPSD)とがあります。

 ケアをする際に対応が難しいのがBPSDです。さまざまな対応法についてこれまで紹介されていますが、その有効性について検証されませんでした。

 そこで、実際に認知症の人をケアする家族や介護・医療従事者に、どのような症状に対して、どのように対応し、うまくいったか否かを投稿していただくウェブサイト「認知症ちえのわnet」を開設しました。

 投稿いただいた情報を分析し、成功率を計算しています。成功率は、サイト内で共有。ケアする人は、それを目安に、最適な対応法を探すことができます。また、質問にイエス・ノーで答えていけば、対応法が提案される「認知症対応方法発見チャート」も提供しています。

 このようにトライ&エラーを繰り返しながら効果的な対応法を見つける方法は、発達障害の分野にも応用できると思います。将来的には、「発達障害ちえのわnet」も開設したいと考えています。

─高知県における認知症診療の連携は。

 県内に四つある「地域型認知症疾患医療センター」の機能強化を目的に、「基幹型認知症疾患医療センター」である当院が連絡会や研修会を開催して、最新の情報を提供しています。

 診療にとって大切なのは、やはり顔が見える連携です。高知県は広く、すべての地域に認知症の専門医がいるわけではありませんので、かかりつけ医に対応いただく地域が多くあります。また、ご家族の方がどのようにケアすれば良いか悩んでも相談できる場所が少ない地域もあります。

 認知症には、大人の水頭症のように〝治る〟認知症もあり、アルツハイマー病やレビー小体型認知症であっても、早く診断して、早く治療を始めることができたら、長く良好な状態を長く保つことができます。BPSDに関しても、ご家族がそのことを認識されるだけで、ケアの方法も変わってきます。

 専門医が少ない地域の医師会からお呼びいただいて、認知症の診断・診療について、「認知症ちえのわnet」の話をさせていただく機会も増えています。また、豊富な知識や経験を持つ介護福祉士やホームヘルパーの方とも講習会や学習会を行い、「認知症ちえのわnet」を通じての意見交換なども呼び掛けています。

 かかりつけ医をはじめ多くの方に、認知症についてもっと理解を深めていただき、早く専門医につなげていただけるような仕組みができるよう努めていきたいですね。

―「認知症ちえのわnet」の展望は。

 あるテレビ番組でこのウェブサイトが紹介されたことで、一気に1000人ほど登録者数が増えたことがありました。「まずは知っていただく」ということの大切さを実感しました。これを機に高知県だけでなく、全国からの登録者も増え、ケア体験の投稿は現在約2690件、まずは5000件を目指しています。

 現在、新型コロナウイルス感染症の影響で、介護施設に通えずに、在宅でのケアで悩んでいるご家族も多いと思います。「認知症ちえのわnet」も活用して、例えば、どのような気分転換をさせたらよいのか、といった情報を広く伝えていけたらと思います。

高知大学医学部 神経精神科学教室
高知県南国市岡豊町小蓮185─1
☎088─866─5811(代表)
http://www.kochi-ms.ac.jp/~fm_nrpsy/

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