徳島大学大学院医歯薬学研究部 精神医学分野 教授 大森 哲郎 会長

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【3月 徳島市】第13回日本統合失調症学会 どこまで治る、どう生きる

【おおもり・てつろう】 1981 北海道大学医学部卒業 1985米ケースウエスタンリザーブ大学医学部常任研究員1995 北海道大学医学部精神医学講座助教授 1999 徳島大学医学部精神医学講座(現:徳島大学大学院医歯薬学研究部精神医学分野)教授

 2018年3月23日(金)、24日(土)の2日間、徳島市で開かれる「第13回日本統合失調症学会」。会長を務める徳島大学大学院医歯薬学研究部精神医学分野の大森哲郎教授に、学会の見どころや抱負を聞いた。

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―学会のテーマは「どこまで治る、どう生きる」です。

 統合失調症は治療法が進歩して寛解する人も増えてきました。しかし、治療が難しいケースもあります。精神科医は日々の診療の中で「この患者さんをどこまで治せるだろうか」と常に考えています。

 簡単に治る症例であれば、もちろん完全治癒を目指します。しかし、多くの患者さんの場合、そうはいきません。統合失調症の患者さんが日常生活を過ごすのに困らない程度まで治す、そのためには何をどこまでやるべきかが精神科医にとって大きなテーマです。

 統合失調症は寛解後も薬の服用が必要であり、長期間、医師やご家族のサポートが必要な場合が多いのが現状です。中には、希望する職業に就けない。地域で生活しづらいなどのハンディキャップを持って生きていかなければならない人がいることも事実です。それでも充実した人生を過ごすことは十分に可能です。仮に症状が残ったとしても、そこから、どう地域で生活していくのか、それがとても大事なのです。

―見どころは?

 特別講演を二つ用意しています。初日の特別講演1では、カロリンスカ研究所(スウェーデン)のヤリ・チーホネン先生が講演します。

 チーホネン先生は、抗精神薬を服用する群と、しない群の統合失調症の患者さんでは、どちらの寿命が長いかについての大規模な疫学研究をされた方です。その研究の結果、抗精神薬を服用した群の方が、寿命が長いことが分かりました。

 抗精神薬には副作用があります。例えばアルツハイマー型認知症の患者さんが服用すると死亡リスクが2.5倍高まることが分かっています。

 しかし、統合失調症の患者さんが服用すれば寿命が延びる。それはなぜかというと症状が安定して生活習慣が改善し、健康状態が良くなるからです。チーホネン先生のお話を聞けるのは滅多にない機会なので、とても楽しみにしています。

 2日目の特別講演では作家の盛田隆二さんにお話をしてもらいます。

 盛田さんは著書「父よ、ロング・グッドバイ―男の介護日誌―」の中で、アルツハイマー型認知症の父親の介護体験を描きつつ、統合失調症の妹さんのことも率直に書き記しています。

 ご家族に統合失調症の人がいることを公表した本は私が知る限りまだわずかですし、家族の立場から見た統合失調症患者の話を聞くことは精神科医にとって、とても参考になると思います。

 日本統合失調症学会では昔から医師だけでなく、臨床心理士や看護師、ソーシャルワーカー、患者さんなどが発表する機会を設けるようにしています。

 地域活動特別報告では統合失調症の元患者さんで、現在はピアサポート活動に従事している方に講演してもらいます。また、市民公開講座では統合失調症のピアニスト、横島若騎さんによる講演とピアノ演奏を企画しています。

 学会のポスター、学会ホームページのトップ画像は徳島大学精神科の作業療法室で患者さんが作った作品で、藍染めによるものです。また学会初日の懇親会では、阿波踊りの実演と郷土料理を用意するなど、徳島らしさを前面に打ち出していこうと思っています。

―徳島大学からの発表はありますか。

 若手中堅シンポジウムを二つ用意しています。若手中堅シンポジウム1「ここまで分かった統合失調症〜分子生物学的研究〜」では沼田周助准教授が「ホモシステイン代謝経路の異常と統合失調症」を、若手中堅シンポジウム2「ここまで分かった統合失調症〜脳画像研究〜」では中瀧理仁講師が「MRスペクトロスコピー研究」について発表をします。

 そのほか私の会長講演も予定しています。この30年で統合失調症の概念は大きく変わり、2002年からは、それまでの「精神分裂病」から「統合失調症」へと呼称も変更されました。

 国際的にも統合失調症についての研究が進み、明らかになったことも増えましたが、その結果、他の疾患との境界線があいまいになってきたことも事実です。また発症と非発症の境界線をどこで引くかなども大きなテーマです。

 会長講演では統合失調症の概念の変化の歴史についておさらいをした後、当大学の研究テーマの一つである「統合失調症患者さんの生活の質と認知機能研究」についての研究結果を発表する予定です。

 統合失調症の患者さんの症状は、幻覚・妄想などの「陽性症状」、引きこもり、感情の乏しさなどの「陰性症状」、記憶障害、注意・集中力の低下などの「認知機能障害」と、大きく三つに分類されます。この中で陽性症状は薬が効きやすいのですが、それ以外は薬が効きにくい。

 陽性症状が薬で良くなっても、陰性症状や認知機能障害によって社会復帰ができず、QOLを損なってしまっている患者さんがたくさんいます。私たちは「認知機能障害」に注目し、今後も患者さんのQOL向上のために研究を進めていくつもりです。

―統合失調症医療の現状と課題は何でしょう。

 患者さんの病院から在宅への移行が進んでいます。入院期間を短くして、地域全体で患者さんを支え、病気の再発を防ぐことが重要だと思います。

 2009年に抗精神薬「クロザピン」が発売されました。クロザピンは治療抵抗性の統合失調症に効果があるとされる唯一の薬です。しかし、副作用もあり、服用に際しては、定期的な採血が必要となります。

 日本でクロザピンは欧米の100分の1ほどしか使われていません。それはなぜか。クロザピンには無顆粒球症という副作用があります。それに対応するためのモニタリングシステムが必要なのですが、認可を受けている施設がまだ少ないからです。

 クロザピンがもう少し普及すれば、患者さんはその恩恵を受けることができ、もっとたくさんの人が地域で生活できるようになるはずです。

 疾患の治療とともに世間の偏見をなくすことも重要です。昔ほどではありませんが、それでも統合失調症に対する偏見は根強いものがあり、患者さんや、ご家族は疾患そのものに加えて差別にも苦しまなければならない。それを少しでも解消するのも統合失調症学会の大きな役割です。

第13回日本統合失調症学会

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特別講演1

3月23日(金)12:50~13:50
座長:久住 一郎(北海道大学大学院医学研究院神経病態学分野精神医学教室)
演者:ヤリ・チーホネン(カロリンスカ研究所)

特別講演2

3月24日(土)11:10~12:10
「統合失調症の妹と認知症の父を抱えて(仮)」
座長:大森 哲郎(徳島大学大学院医歯薬学研究部精神医学分野)
演者:盛田 隆二(作家・日本文芸家協会会員)

会長講演

3月23日(金)14:15~14:45
座長:福田 正人(群馬大学大学院医学系研究科神経精神医学)
演者:大森 哲郎(徳島大学大学院医歯薬学研究部精神医学分野)

地域活動特別報告1

3月23日(金)14:55~15:55
座長:上野 修一(愛媛大学大学院医学系研究科分子・機能領域精神神経学講座)
演者:長野 敏弘(公益財団法人正光会御荘診療所)

地域活動特別報告2

3月23日(金)15:55~16:55
座長:曽良 一郎(神戸大学大学院医学研究科精神医学分野)「統合失調症を地域で支えるピアサポーターの役割(仮)」柳 尚夫(兵庫県但馬県民局豊岡健康福祉事務所(豊岡保健所))「淡路島のピアサポート活動~現状と課題~(仮)」柳 尚孝(医療法人新淡路病院淡路障害者生活支援センター)

市民公開演奏会

3月24日(土)17:00~18:30
「統合失調症のピアニストによる講演と演奏」
司会:大森 哲郎(徳島大学大学院医歯薬学研究部精神医学分野)
演者:横島 若騎(p.p&p.c)

会期:2018年3月23日(金)、24日(土) 
会場:あわぎんホール 運営事務局:株式会社メッド
TEL:086-463-5344
学会㏋:http://www.med-gakkai.org/jssr13/


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