2月末公開予定 動画で「分かりやすさ」重視 患者向けツールのダウンロードも
抗がん剤曝(ばく)露対策協議会(垣添忠生理事長)理事で同志社女子大学薬学部臨床薬学教育研究センターの中西弘和教授が、ウェブサイト「抗がん剤治療と曝露対策」の公開準備を進めている。薬剤師や看護師などを主な対象とする専門的な情報が中心で、患者への説明をサポートする情報ツールなども盛り込む。公開は2月末を予定。中西教授は「医療者がすぐに活用できる内容にしたい」と語る。
取り組みに温度差「正しい知識を」
米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は「ハザーダスドラッグ(危険薬剤)」の定義として「発がん性」「低用量での臓器毒性」「遺伝毒性」などを挙げており、リストには抗がん剤も含まれている。
国内でも、これまで日本病院薬剤師会(1991年「抗悪性腫瘍剤の院内取扱い指針」など)や日本看護協会(2004年「看護の職場における労働安全衛生ガイドライン」など)がガイドラインを策定。医療者のばく露対策が推進されてきた。2014年には、厚労省が関係団体に向けて「発がん性等を有する化学物質を含有する抗がん剤等に対するばく露防止対策について」を通知するなど、国としてもばく露対策を促進しているところだ。
しかし、ばく露に対する理解や対策の実践については、医療施設によって温度差があるのが現状だ。
中西教授はウェブサイト「抗がん剤治療と曝露対策」を通じて正しい知識の普及や、医療従事者が行動するための後押しを目指す。重視したのは「現場ですぐに役立つ」情報だ。
ウェブサイトでは、ばく露防止に効果的だとされる医療器機の使用方法といった「実務」や、抗がん剤ばく露の対策がどのように発展してきたのかを学ぶことができる「教育」、最新の研究成果などを知らせる「研究」などの、カテゴリ別に情報を整理した。動画コンテンツなども盛り込むことで、視覚的にも分かりやすく「危険性を認識して適切に対処する」ためのポイントを伝える。
海外の論文の翻訳も掲載
ウェブサイトは公開後、順次、コンテンツを充実させていく計画だという。例えば、がん治療に関する海外の論文を翻訳して掲載する「。忙しくてじっくりと読む時間がない」「英語の論文はハードルが高い」といった医療従事者がアクセスしやすく、海外の動きをリアルタイムで共有できる機会を提供するためだ。中西教授がこれまでの講演などで使用した資料も公開。「講師を招くのが難しい地域の医療機関もある。スライドを役立ててもらえたらうれしい」。また、医療従事者の業務を支援するツールを配布。患者に対する啓発効果も期待している。抗がん剤ばく露とは何か、治療中の副作用にはどのようなものがあるのか。説明用の文書や、副作用のチェックリストといったファイルのデータをダウンロードできるようにする。
学会や医療団体、企業など、医療に関わるさまざまな職種が参画して医療安全対策の普及を目指すプロジェクト「医療安全全国共同行動〝いのちをまもる パートナーズ〞」。その行動目標の一つである「医療従事者を健康被害からまもる」の中で「抗がん剤ばく露のない職場環境の実現」を掲げるなど、ばく露対策は医療界全体を巻き込んだ動きへと発展しつつある。中西教授は医療機関の評価項目として、今後、ばく露対策が重視されていくと見ている。「安全に働ける病院として人材の確保にもつながるのではないか。ぜひウェブサイトの情報を活用してほしい」。
●調製時の吸入ばく露防止のために、室外排気型の安全キャビネットを設置する
●取り扱い時のばく露防止のために、閉鎖式接続器具を活用する
●取り扱い時におけるガウンテクニック(PPE:呼吸用保護具、保護衣、保護キャップ、保護メガネ、保護手袋の着用)を徹底する
●取り扱いに係る作業手順(調剤、投与、廃棄等におけるばく露防止策を考慮した具体的な作業方法)を策定し、関係者へ周知徹底する
●取り扱い時の吸入ばく露、針刺し、経皮ばく露した際の対処方法を策定し、関係者へ周知徹底するなど
(医療安全全国共同行動「行動目標W」より抜粋)