新制度の導入でより信頼される医療を
―新制度で変化したことは。
外科分野にとって、手技のレベル向上、維持は重要なテーマです。日本外科学会では、かねてから公的な認定制度の必要性を訴えてきました。
従来は各学会が独自の基準で専門医を認定してきましたが、今回、共通の制度となりました。患者さんに分かりやすく信頼度の高い医療を提供するという意味で、非常に良いステップではないかと思います。
これまでの「カリキュラム制」は、期間のしばりなく各々が経験を積み上げる形でした。新制度で導入された「プログラム制」では、外科専攻医は3年間で350以上の外科手術を経験することが義務付けられます。消化器外科手術を50例、小児外科手術を10例など、その内訳は細かく、短期間であらゆる経験が積めるよう、構成されています。また学会主催のセミナーの受講や筆記試験の合格が必須です。
2010年、日本外科学会など外科系のさまざまな学会が協力し、「一般社団法人National Clinical Database(NCD)」を発足。現在、ほぼすべての手術症例がNCDに登録されています。今回、専門研修基幹施設の認定要件に「年間500例以上のNCD登録外科手術症例数を有している」ことが盛り込まれるなど、NCDが新制度をデータ面から支えています。
―初年度の外科専攻医応募数をどう見ますか。
基幹施設は全国で204施設。定員2044人に対し806人が応募しました。少なく感じるかもしれませんが、例年同等の数です。
定員は各病院がNCDの登録手術例数500例につき、専攻医3人を受け入れ可能であるとして算出した「目安」。県ごとの比較でも、人口比などを照合して総体的に見れば、充足率にこれまでと大きな違いはありません。懸念された、都市部への専攻医の極端な集中もなかったようです。
ただ地域によっては応募が少なく、応募者ゼロの県はありませんが3人以下が8県。うち1人が2県(群馬、高知)ありました。施設別で見ると応募者ゼロは44カ所になります。
専攻医が減った施設では、これまで一定水準の人数の研修医が在籍していたことで可能だった地域への医師派遣が不可能となり、地域医療が縮小してしまうのではないかという新たな懸念も出てきました。
「研修医が自分自身で研修先を選択できる」。このシステムの影響がどう出るのか、今はまだわかりません。ただ、統一の枠組みができたことで、情報が把握しやすくなったのは確かです。集まった情報を分析し、さまざまな是正や対策に取り組んでいく足がかりにしていきたいと思います。
―展望を教えてください。
日本外科学会ではプログラムで必須のセミナーをeラーニングで受けられるよう検討を進めています。実現すれば、地方の専攻医や子育て中の女性医師なども受講しやすくなるでしょう。
外科分野全体の課題は、外科医を目指す若手の減少。今年の専攻医の数も、例年同等とはいえ微減です。理由の一つとして考えられるのが、「サブスペシャルティ取得に時間がかかる」というマイナスな受け止めがあること。しかし、専門医の取得は、必要な技術を身に付けたという一種の「証し」です。その意義を認識してもらう必要があると思います。
今後は、専門医取得者に対するインセンティブの議論も不可避でしょう。海外では、専門医とそうでない医師とでは、手術料が異なるなど明確な違いがあります。国内でも検討していくべきだと考えます。
また日本外科学会ではサブスペシャルティ領域の専門医取得の先に、より高度な技能と知識を持った「高次専門医」認定制度も構築する予定です。患者さんからスペシャリストとして把握・信頼され、医師にとっても取得の意義がある専門医。その確立に向けて、学会の一員として努力していきたいと思います。
九州大学大学院 小児外科学分野
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