温故知新の精神で「生涯を支えます」
1974年に開院し43年の歴史がある西川産婦人科。姫路市内で最も早く不妊症の治療に取り組み始めた。「最新の機器を備えた病院にしたい」と生き生きとした表情で話す西川義規理事長に「これまでの歩み」と「これから」について聞いた。
―産婦人科医を志したきっかけを教えて下さい。
地元の姫路西高校を卒業後、神戸大学理学部に進学しました。生物学を専攻し、授業の一環で瀬戸内海東部の家島諸島などに行って海底生物や島の植物の生態調査、鉱物の調査をしていました。
将来は父と同じく学校の教員になろうと思っていたのですが、大学2年の時、「植物や昆虫といった生物を扱うのも良いが、同じ生物ならば人間を相手にする医者になったらどうか」という父の言葉を受けて一念発起。半年間の猛勉強の末、兵庫県立神戸医科大学(現:神戸大学)医学部に3年次から編入しました。
医学部を卒業し、姫路赤十字病院にインターンに行ったのとちょうど同じ頃、父に末期の胃がんが見つかり神戸大学病院で手術を受けました。そういった状況にも影響を受けてインターン先では外科の勉強をしました。
インターンが終わり教室を決める時に父が亡くなり、「外科には限界がある。それよりも命の誕生の場に立ち会えたら良いな」と思い、産婦人科医になることを決めました。選択一つで人生は大きく変わると思います。私が産婦人科医になったのには父親の存在が大きく影響しているのです。
―西川産婦人科のコンセプトと産婦人科を取り巻く環境について。
「親切でありたい」。親切はやり過ぎてだめなことはないと思うのです。だから患者さんはもちろん、周りの全ての人に親切でありたい。それが私の信念であり当院のコンセプトです。
産婦はいつ、どのように病態が変化するのか分かりません。十分な人員を確保し、いつでも様子を確認できる管理体制を整える必要があります。
当院では私を含めて3人の常勤医師と2人の非常勤2人の合計5人の医師が診療しています。経験・技術とも兼ね備えた医師が多く、大変心強く感じています。
当院では最近、無痛分娩に力を入れています。麻酔後の管理をすべて看護師に任せるのではなく、医師もモニターで観察して異常が起きそうな場合はいち早く対応できる体制にしています。
私は兵庫県医師会の医療安全対策委員会で8年間委員を務めました。公になっていないものも含めてそういった事案は少なからず起きています。
同委員会では医療事故を未然に防ぐため、医療事故の実態調査や医療訴訟に関する勉強会、年に1度医療事故防止を目的とする講習会を開くことで啓発活動にも取り組むほか、実際にトラブルや訴訟が起こった場合は仲介に入り、損害賠償額の交渉も行いました。
医療訴訟では多額の損害賠償を請求される場合が多く、それにより閉院に追い込まれるケースもあります。医師1人体制だとリスクが高くなる傾向がありますから、それを避けるために、産婦人科医でも分娩を取り扱わない婦人科をビル開業する医師が増えています。
しかし、大きなやりがいを感じることのできる診療科でもあります。先日は20年ほど前に当院で生まれた女性の分娩を担当しました。ここで生まれた赤ちゃんがまた戻ってきてくれて親子2代にわたって赤ちゃんを取り上げることができる。これほどうれしいことはありませんね。
―不妊治療について。
30年ほど前に不妊外来を設けて、姫路市内では最も早くから不妊症の治療に取り組んでいます。
不妊外来では女性だけでなく男性を対象とした検査や治療もしています。また不妊治療を考える夫婦に、正確な知識を身に付けてもらうことを目的とした「不妊教室」や「体外受精セミナー」を開催しています。
初めての症例は卵管閉塞がある方でした。手術してもまたすぐに卵管が詰まってしまうため、卵子と精子を体外で受精させ、数日後に良好な胚を選んで子宮内に胚移植する「体外受精」を1989年に実施。翌年第1子が誕生しました。出産まで至らなかったケースも含めると、29年目の今年には約200件の体外受精を実施しています。
当院において体外受精で出産に至った女性の最高齢は48歳です。その方は翌年にも同じく体外受精で出産。幸い子どもは2人とも健康に生まれたのですが、女性の年齢を考慮すると、それはかなり奇跡的なことです。
「顕微授精」では、元気そうな精子を一つ医師が選んで卵子に直接注入します。「どんな子どもが生まれるだろう」「元気に生まれてほしい」と責任を感じますね。
生まれつき卵巣がないい女性で「子どもがほしい」と相談に来た方もいました。海外で卵子を提供してもらい、夫の精子との受精卵を子宮に戻して妊娠、当院で無事に出産した人もいます。
医学の進歩はすさまじく、これまでは妊娠できなかった人も出産できるようになったのはすばらしいことですが、倫理的な面も含めて「これで良かったのか」と考えることも少なくありません。
―西川産婦人科の特徴は。
2005年にJR姫路駅ビルで当院の副院長が「医療法人社団こうのとり会 西川レディースクリニック」を開設。婦人科検診や更年期、ホルモン異常、妊婦検診といった分娩以外の診療をしています。カルテは本院でも共有しており、必要な場合はスムーズに当院につなげることが可能です。
産前・産後の女性を対象に、マタニティーヨガや産後のシェイプアップを目的としたアフタービクスを当院の敷地内に設けた「母親教室」で行っています。どの催しも30人ほど集まるなど毎回盛況です。「母親教室」の横には「喫茶セントポーリア」があり、待ち時間が長い場合はここでお茶を飲むこともできます。
入院中の楽しみといえば「食事」です。シェフを雇っている産婦人科もありますが、当院では栄養士に「他に負けないくらいの料理を」と依頼。頑張ってくれています。
当院は病床数19床で処置のためのベッドが八つ、分娩室が二つ、手術室は一つ。分娩が重なった場合は予備室で待機してもらい、お産が終わるとすぐに入れ替える方法で対応しています。
今後の課題は助産師の後進育成です。当院で働く助産師は60〜70代の方が多い。2、3年のうちに20〜30代の若い助産師を数人入れていきたいと考えています。さらに、現在も徐々に進めている医療機器の更新によって最新のものを整備したい。今ある建物の横に新しい病棟を建て、病院にしたいとも考えています。
当院は看護学校の実習病院です。来年度からは助産師学校の実習病院にもなる予定です。「若い力の芽生え」をさらにサポートしていきたいと考えています。
私はライオンズクラブの活動にも力を入れています。2014〜2016年には国際理事として海外で奉仕活動をし、多くの友も得ました。臍帯血に含まれる幹細胞を利用した再生医療にも協力したいと思っています。
医療法人社団こうのとり会西川産婦人科
兵庫県姫路市花田町一本松165-1
TEL:079-253-2195(代表)
http://www.nishikawasanfujinka.org/