進むがん医療の個別化 カギを握る技術とは?
遺伝子レベルの解析に基づき個々の患者に最適な治療法を探るオーダーメード医療(個別化医療)の研究が加速している。国が推進する「がんゲノム医療」の普及の見通しは。最前線を知る一人、徳島大学の高山哲治教授を訪ねた。
―現在、がんゲノム医療はどのような段階にあるのでしょうか。
2018年5月、私たちは「がん遺伝子パネル検査」を開始しました。がんに関連する数百の遺伝子を網羅的に調べ、がんの原因となっている遺伝子を特定します。その結果を基に効果が高いと考えられる薬剤を選択し、治療方針を組み立てるのです。
標準治療が「ない」と診断された方、あるいは標準治療を終えた患者さんなどが対象です。これまでに15人ほどの方が徳島大学病院で検査を受けました。
国は2018年2月、がんゲノム医療の普及を促進するために、けん引役として全国に11の「がんゲノム医療中核拠点病院」を指定しました。当院は中核拠点病院と連携して検査などを実施する「がんゲノム医療連携病院」です。
連携病院の拡充など段階的に提供体制の整備が進む中、今春、先進医療として提供してきたがん遺伝子パネル検査が保険適用となる見込みです。
現状、検査によって原因となる遺伝子変異が見つかり、薬剤が治療につながるケースは1~2割だと言われています。
保険適用によって検査数が増加し、情報の集積が進むことで、より精度の高い診断、治療に結びつくことが期待されます。
―近年の主要研究の動きで注目しているのは。
実際の臓器に近い構造をもつ「ミニ臓器」とも呼ばれるオルガノイド。その作製技術に関する研究が注目されています。
各臓器や組織に特有の機能を担う細胞を「分化細胞」と言います。分化細胞の寿命は数週間。臓器の機能を維持するために、幹細胞が新たな分化細胞を生み出し続けています。
採取されたヒトの正常な細胞や腫瘍は、一般的に1カ月程度で死滅してしまいます。従来の培養方法では「幹細胞が分化細胞を供給し続ける」環境の再現が困難だったためです。体外でヒトの細胞を長期に培養し、薬剤試験などを可能にする手法の確立が求められていました。
慶應義塾大学の佐藤俊朗オルガノイド医学教授らのグループは、腸管上皮幹細胞培養技術(腸管オルガノイド培養)を開発しました。幹細胞の増殖に必要な増殖因子として「EGF」「R-spondin」「Wnt」「Noggin」などを用いることで、永続的な培養が可能となったのです。
ここ数年、私たちもこのオルガノイド培養技術を導入し、大腸がんの薬剤耐性機序の解析や、薬剤の効果の検討、予防法の開発などに取り組んでいます。がん患者の腫瘍を再現できるようになったことで、研究の幅は大きく広がりました。
遺伝子変異特定後、スムーズに最適な治療へ移行する。オーダーメード医療の発展に貢献できるでしょう。オルガノイド培養技術を活用した研究領域において、徳島大学が四国エリアをリードできるよう、努めていきたいと思っています。
―今後、どのような点が大切だと思われますか。
研究から臨床への応用には、「情報の周知」と「確実に運用されるシステム」の整備が重要です。
近年、がんゲノム医療に対する関心の高まりなどを背景に、患者やご家族からのさまざまな問い合わせが増加しています。
ただ、高齢化が進み、情報リテラシーの格差はさらに拡大していくと思われます。また、新たな技術に対する医療者の理解度についても、やや開きがあることが指摘されています。
市民公開講座や院内での講習会などを通じて正確な知識の共有、適切な対応を図りたいと思います。
徳島大学大学院医歯薬学研究部 消化器内科学分野・腫瘍内科学分野
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