医師、組織の成長のために国内外への留学を推進
2005年に開講した熊本大学大学院生命科学研究部消化器外科学。馬場秀夫教授に、現在取り組んでいる人材育成や研究について、また日本外科学会の外科医労働環境改善委員長として、外科医の働き方について尋ねた。
―不足が懸念される、外科医の育成について。
外科医になる人が減ってきています。確かに労働時間が長く、リスクもありますが、外科を経験すればその魅力に気づいてもらえるはずです。
必要とされるのは、患者さんの心情に共感できる人間性、ヒューマニティーです。もちろん技術といったアートとサイエンスを含め、バランスのとれた医師であることが求められていると思います。
もう一つは「グローカル」に活躍できる人材。世界に目を向けたグローバルな視点を持ちつつも、ローカルに活躍できる力をつける必要があります。そのために熊大はアメリカ、ヨーロッパ、シンガポール、韓国といった海外の国々や、がん研有明病院、静岡がんセンターなど国内のトップレベルの施設へ、多くの医師を留学させています。
これは将来のための投資です。大学に残った医師も、限られた人員の中で効率よく働くように努力しますし、留学した人は新しい考え方を組織に還元するので、ともに成長することができます。若い医師たちのために、多様に学べるチャンスを与え、本人たちの満足度を上げる教育システムが必要だと思います。
―労働環境改善委員長として働き方改革の現状は。
まずは、これまでの主治医制からチーム制へ変えて、一人一人に負担がかかりすぎないようにしていこうと思っています。また、厚労省と連携して特定看護師のような医師とナースの間の中間職種を増やすことでタスクシフトを推進し、業務改善につなげていきたいですね。社会全体の意識改革も必要でしょう。時間外にコンビニ受診するような今の状況を改善するために、国も取り組みを始めています。これらが実現すれば、外科医の精神的な負担、労働時間の負担などを減らすことができ、若手の獲得にもつながっていくと思います。
―熊本大学の消化器外科教室については。
2022年に熊大外科開講100年を迎えます。大きな節目ですので、今から何か記念に残るイベントができないかと考えています。私個人としては、それが今の最大の目標です。研究面では、がんの研究が中心になります。スキルス性胃がん、膵臓がんなど治りにくいがんに対して、がんの進展に関わる分子の解明と新たな治療法の開発を目指しています。
また最近注目しているのが腸内細菌です。どこで育ったか、母乳かミルクか、運動習慣があるか、肉食なのか菜食主義なのか...といったことが腸内細菌に影響を与え、それががん、炎症性腸疾患、精神疾患、うつなどの疾患に関わることが分かってきています。私たちは食道がんの発生に、口腔内の常在菌フソバクテリウムが関わっていることを、世界で初めて見つけて報告しました。いろいろな腸内細菌が発がん、進行にどのような影響を及ぼすのか研究を続けたいと思っています。
他にも免疫チェックポイント阻害剤がどういう場合に効きやすいか、最も効果が期待できる人はどういう人たちなのか、絞り込む研究も進めています。
臨床面では2018年に食道・胃・直腸がんの一部でロボット支援手術が保険適用になったことから、熊大でもロボット支援手術の症例数を増やしています。さらに今、臨床の現場にも、AIが登場しています。今後は内視鏡の画像解析をAIが判断する、また治療面では、患者情報をもとに最適の治療法を精査するといったイノベーションがもっと進んでくると確信しています。
熊本大学大学院生命科学研究部消化器外科学
熊本市中央区本荘1-1-1
TEL:096-344-2111(代表)
http://kumamoto-gesurg.com/