ウィルソン病は治療可能 早期発見・治療がカギ
2015年に難病に指定された「ウィルソン病」。薬物で治療できる、まれな遺伝性疾患であり、早期に的確な診断と治療を行うことが重要である。ウィルソン病の治療に取り組む産業医科大学の原田大教授に、疾患の概要と治療について話を聞いた。
―ウィルソン病とは。
ウィルソン病の原因は、銅がさまざまな臓器に蓄積することです。銅は身体に必須の微量元素ですが、過剰に存在すると活性酸素を生じて細胞の働きを妨げます。過剰な銅は肝細胞から胆汁中へ分泌されて身体から排泄されますが、遺伝子変異によって銅輸送タンパクであるATP7Bの機能が低下すると、銅が身体に蓄積してさまざまな臓器障害を引き起こします。
まず肝細胞障害、さらに銅が蓄積すると神経障害が起き、次第に身体のあらゆる臓器に障害が起きます。発症年齢もしくは診断される年齢は10代が最も多い一方で、40歳以降に見つかる患者さんもいます。
主な症状は全身倦怠感や黄疸、偶然の肝機能障害、神経障害の中でも錐体外路障害です。手指振戦や歩行障害、構音障害、性格変化、よだれ(流涎)やうつ症状が出ることがあり、腎障害や心不全、不整脈、関節障害もあり得ます。500以上の変異型があるので症状や発症年齢は多様です。
患者数は約3万人から4万人に1人と考えられていますが、異常遺伝子保有者は約80~100人に1人と考えられており、決して少なくはありません。
―産業医科大学での治療・研究の現状、早期発見と治療のポイントは。
ガイドラインに従って、診断・治療を行っています。血清セルロプラスミン値の測定や尿中銅の検査、入院しての蓄尿検査、肝生検などを実施して総合的に診断し、患者さんにとって最適な治療法を考えます。
患者さんの大部分は、小児科、消化器内科、神経内科の先生からの紹介です。原因不明の肝障害で紹介されて、ここでウィルソン病と診断した患者さんもいらっしゃいます。きょうだいがウィルソン病と診断されたため検査をして診断される例もあります。
治療では、主にD―ペニシラミンやトリエンチンなどの薬物を使用しますが、怠薬をさせないことが極めて重要です。怠薬すると、それまで調子が良かった患者さんの容態が治療再開後に悪化することがあります。
急性肝不全などの場合は肝移植を行う場合もあります。また原因不明の特発性銅中毒症という病態があり、非常に重篤になることがあるので注意しています。
内科医の間ではウィルソン病の認識が以前より高まっており、原因の分からない肝障害の患者さんの血清セルロプラスミンを測定して、紹介してくださる医師も増えてきました。
早期発見のポイントは、慢性肝障害の患者さんを診た場合にはウイルス性肝炎、脂肪肝、アルコール性肝障害、自己免疫性肝疾患とともにウィルソン病の可能性を考えることです。特に神経障害を伴っていれば、必ず本症を疑うこと。とにかく本症を思いつき、血清セルロプラスミンを測定することが重要です。
長く治療を続ける中で、患者さんが進学などで親元を離れて怠薬するケースがあるので注意が必要です。
妊娠・出産については、産科の多くの先生はウィルソン病の治療薬は催奇形性は少ないことを認識しておられますので問題ありません。治療を支える仕組みとしては、患者さんを中心とした「ウイルソン病友の会」という全国組織があり、さまざまな患者さんの相談に乗ってくれています。
本学では、少しでも肝移植を減らすために、補助療法として過剰な銅の細胞障害機序と対策の解明、銅とオートファジーの関連などの研究を進めています。いかにウィルソン病を周知し、患者さんの負担を軽減するか。それが今後の課題です。
産業医科大学医学部第3内科学
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