寄り添い、癒やし、地域と共に生きる
1984年織田デザイン専門学校卒業。米パーソンズ美術大学、米ニューヨーク市立大学ハンター校、オレンジ・コースト大学などを経て、2010年医療法人社団崎陽会日の出ヶ丘病院入職、2016年から現職。
3代にわたり、非医療職の女性がトップを務める日の出ヶ丘病院。祖母が開設した病院の運営を、2代目だった母から引き継いでまもなく3年。坂井典子理事長が目指すのは、地域に生き、人が集う病院だ。
―病院の特徴は。
「どんな病院ですか」と問われた時、私は「ホスピス(緩和ケア病棟)がある病院です」と答えています。一般、医療療養、介護療養、認知症治療の各病棟もあり、それぞれを大切に思っていますが、緩和ケア病棟への思い入れは特に強い。それは、この病棟が、父の病気と死をきっかけにできた場所だからです。
母が理事長を務めていたころ、事務長をしていた父に肝がんが見つかりました。当時まだ50代。少し離れた急性期病院で手術などを受けましたが、そのうち治療手段がなくなった。そして父は母に「(日の出ヶ丘病院に)戻りたい」と言いました。母は、父の最期の願いをかなえるためだけに、この病院に連れて帰り、その3日後、父は亡くなりました。
闘病中の方とそのご家族の苦しみ、悲しみは深い。身をもって知った母は、父の死後、「緩和ケア病棟」の存在を知り、この病棟でそのつらさを癒やしたいと開設を即断。準備を進め、2000年、実現にこぎつけたのです。
昨年、当院は50周年記念事業の一環で「願いの車『流星丸』」を配備しました。海が見たい、思い出の地を訪ねてみたい、友人に会いたい...。終末期の方の、最後の旅の願いをかなえるために走らせる車です。
寄り添い、向き合い、癒やす「ホスピス」のマインドが全病棟に浸透するシャワー効果によって、この病院全体が育っていけばー。「ホスピスがある病院です」という言葉には、そんな願いを込めています。
―目指す病院の姿は。
「あなたや家族をこの病院で診てほしいですか」「あなたは、この病院に勤めていると誇りを持って他の人に言えますか」母は理事長着任時、そう職員に語り掛けました。そして、この二つの問いに即答できるような病院をつくることを目指し、病院の理念を「地域と共に生き、信頼される医療の提供に努めます」としました。その思いを私も受け継いでいます。
50周年記念事業では、「リハビリガーデン」を病院の外庭につくりました。触れられる、香りを感じることができるなど五感を意識して、ハーブ園、果樹園、温室もガーデン内に整備。地域の方の交流の場になればと思っています。
バザーや講演会、コンサートも開催。積極的に雇用している外国人職員による無料英会話スクールも開き、多くの方が参加してくれます。「崎陽会ぽかぽか基金」も設け、ネパールやフィリピンの医療や子どもたちを支援する団体への寄付も続けています。
近い将来、音楽堂や健康増進施設をつくる目標もあります。地域の方が集い、学び、コミュニティーが形成されていく。そんな病院像を描いています。
―さまざまな改革を進めてこられました。
一番大きかったことは、組織改編でしょう。従来は、いくつもの役職がありましたが、全部門、1人のリーダーが率いる職場長制度にしました。やる気がある人、行動している人を職場長に据え、適任でなければ交代。年功序列ではありません。頑張れば報われる。それを明確に打ち出したことで、一人ひとりの意識が大きく変わりましたね。リーダーを担っている人の多くは40歳前後。理念を共有した、前向きな組織になったと思います。
診療面は、院長はじめ医療職の「やりたい」という思いを尊重し、支援します。私は非医療職だからこその視点と、女性であること、この地を地元として育った経験を生かし、後方部隊として職員と病院をしっかりと支えていく。それが役割だと思っています。
医療法人社団崎陽会 日の出ヶ丘病院
東京都西多摩郡日の出町大久野310
TEL:042-597-0811(代表)
http://www.hinodehp.com/