うつ病に対する治療の二の矢、三の矢を求めて
1985年九州大学医学部卒業、同大学病院精神科神経科入局。福岡赤十字病院精神科部長、九州大学医学部精神科神経科講師、佐賀大学医学部精神医学講座准教授などを経て、2012年から現職。
世界保健機関は世界に3億人超のうつ病患者がいると推計。早急な対策が必要だと警鐘を鳴らす。国もうつ病を含む精神疾患を、がんや脳卒中などと並ぶ重点対策が必要な疾病の一つとして位置づける。rTMS(反復性経頭蓋磁気刺激)療法の研究に挑む門司晃教授に話を聞いた。
―うつ病治療の現況は。
うつ病の患者さんは増える傾向にあり、身体、精神を含む他疾患と合併しているケースも多くみられます。精神疾患は、慢性化している方も多いため、たとえ軽度であってもQOLが良い状態とは言えず、患者さん本来のパフォーマンスが発揮できないことがしばしばあります。
うつ病など精神疾患の治療に関しては、以前は頭部に電気刺激を与え、人為的にけいれんを起こして症状の改善を図る「電気けいれん療法」がよく用いられていた時代もありましたが、ここ数十年は薬物治療が主流となっています。全身麻酔と筋弛緩剤で患者の負担を軽減する「修正型電気けいれん療法」も、難治性の場合に使われます。
ただ、患者さんの中には、薬が効きにくかったり、強い副作用のために使用できなかったりする人も一定数います。従来の治療法だけでなく、二の矢、三の矢となる治療法が求められているのが現状です。
―現在研究されているrTMS療法とは。
rTMS療法は、コイルを用いて磁界を発生させ、その作用で前頭前野部に微弱な電流を流して神経細胞を刺激。その刺激により、うつ症状の改善を図るという治療法です。
この治療法では、患者さんに麻酔をかける必要はありませんし、手足のけいれんを抑えるための薬剤を投与する必要もありません。
電気による刺激の場合は頭蓋骨の抵抗により、患部に達するエネルギーコントロールが難しい面もありますが、磁気の場合は頭蓋骨を通る間のエネルギー減衰がほとんどありません。狙った場所に、狙っただけの刺激を与えられるのです。非侵襲的なので患者さんへの負担が少ないだけでなく、比較的安全で副作用もほとんどないというのが特徴です。
毎日30分程度の施術を計30回ほど繰り返します。軽い頭痛を感じる方もいますが、最初の数回で慣れるケースがほとんどです。
―薬物治療との関係は。
rTMS療法は、抗うつ薬とほぼ同じ程度の効果があると考えています。抗うつ薬を使えない患者さんに対して使用できるという意味で、有用な治療法だといえるでしょう。全身に行きわたる薬と違って、ピンポイントに患部の機能改善を図るため、他の臓器などに与える影響が少ないという意味でも、画期的な治療法ではないでしょうか。
抗うつ薬では、不安や不眠、気分の落ち込みといった症状を抑えることが可能です。一方、rTMS療法は人の認知機能や意欲、活力といった部分をつかさどる前頭前野を直接刺激します。障害されていた機能や意欲などを取り戻すことが期待できると思います。
抗うつ薬による治療とrTMS療法は、どちらも排除する理由はありません。むしろ、お互いに足りない部分を補い合うものだと考えています。
―rTMS療法の今後は。
うつ病そのものが、まだ十分に理解されているわけではありません。rTMS療法についても、作用メカニズムは研究段階です。
とはいえ、これまでの研究の結果から、一定の効果は見えてきています。この治療法は、すでにアメリカやカナダなどの外国では保険収載されています。
国内では2017年に装置が薬事承認されました。臨床試験によって、抗うつ薬によって十分な効果が得られなかった18歳以上の中等症以上の患者に対して使用されています。早急に保険収載され、早く多くの患者さんに使えるようになることを願っています。
佐賀大学医学部精神医学講座
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