第16回小児がん看護学会学術集会で
抗がん剤ばく露の対策の必要性は感じているものの、十分に実施できているとは言えない―。
九州大学病院の太田百絵副看護師長らのチームが、このほど開かれた「第16回日本小児がん看護学会学術集会」で、小児がん拠点病院に対して実施した調査の結果を公表した。
日本小児がん看護学会は、3月までに発行する「小児がん看護ケアガイドライン」の改訂版で、抗がん剤ばく露への対策や患児・家族への説明について初めて掲載する予定。"実施"を後押しするものになりそうだ。
防護服着用はゼロ
調査は2017年5月に実施。全国に15カ所ある小児がん拠点病院を対象にアンケート用紙を郵送し、13施設から回答を得た。
「抗がん剤ばく露防止のマニュアルがあるか」という質問に「ある」と答えた施設は10施設で、「ない」と答えたのは3施設。ばく露防止に関する院内勉強会を開催しているかどうかについては「している」と回答したのは8施設だった。
清掃業者や看護助手、妊娠中の看護師に対して、対策などの指導をしているかをたずねたところ、「している」は半数以下。抗がん剤治療を受けている小児がんの子どもの清拭や沐浴(もくよく)の際に、マスクや手袋といった個人防護具(PPE)を装着して介助している施設はゼロだった。
認識と実施にズレ
「認識」と「実施」の2項目について、回答者が5点満点で点数化して答える「意識調査」では、「抗がん剤ばく露防止のため、患児や家族への指導責任は大きいか」という質問に対して、「大きいと思う」を意味する認識点の平均は「4.6点」。一方で、実際の指導の程度を示す実施点の平均は「3.3点」だった。
また、「がん薬物療法における曝露対策合同ガイドライン」で、抗がん剤治療中の患者の排泄後には水洗トイレの水を2回流すことが推奨されていることを認識しているかについては平均で「4.1点」。しかし、患児やその家族に、その情報を伝えて指導していることを示す実施点は平均「2.0点」だった。
抗がん剤調製ロボも
抗がん剤は、がん治療に有効である一方で、有害な作用もあることが知られている。取り扱う医療者だけでなく、外来化学療法の普及で排泄物を扱う可能性がある患者家族にも、健康への影響が及ぶことが懸念されているという。
医療者がリスクを負う職業性ばく露については、数十年前から海外で研究や対策が進んできた。国内では、2014年、厚生労働省が「発がん性等を有する化学物質を含有する抗がん剤等に対するばく露防止対策について」を通達。対策に乗り出す医療機関が増え、抗がん剤を自動で調製するロボットを導入する施設も出始めている。