細分化した専門医療を他科との連携で提供
2001年熊本大学医学部卒業、同整形外科入局。熊本大学医学部附属病院、天草郡市医師会立天草地域医療センターなどを経て、2017年から現職。
新生児から高齢者、首から指先まで、年齢層や診療域が幅広い整形外科。熊本大学では他科との連携で充実した医療体制を構築し、高度医療を提供している。熊本大学の体制や取り組みについて、唐杉樹講師に話を聞いた。
―熊本大学整形外科医局の体制を教えてください。
熊本大学整形外科には、約25人の医師が所属しています。関節、脊椎、腫瘍の三つのグループに分かれて専門医療を提供。研究にも従事しています。
中でも関節グループは「膝関節」「肩関節」「股関節」に細分化され、それぞれに専門医が所属。県内でも医師の数が多く、専門医療の体制を整えています。
他科と連携が取りやすいことも大学病院の強みです。高齢の患者さんは合併症があるケースが多く、治療や手術の際、体全体を診ることが重要になります。
例えば「腎臓が悪い」という患者さんの場合、手術前に内科の先生に診てもらい、術中の留意点や術後の影響を相談する。必要に応じて一つの診療科だけでなく、いくつかの科の専門医に話を聞きながら、治療法を検討していきます。
患者さんに安心して治療を受けていただくことができていますし、医師にとっても、連携が取りやすいことは安心感につながります。この充実した環境は、医師、患者双方にとってメリットがあると思います。
―整形外科疾患の治療の中で、特色のあるものは。
変形性膝関節症の手術に「片側仮骨延長法」という術式を採用しています。
軟骨の摩耗によって膝の内側に痛みを感じる患者さんの場合、脛骨の内側にくさびを入れ、創外固定器という器具を用いて徐々に骨延長を行い膝の角度を調節することで膝にかかる負担を軽減させる術式です。除痛に優れ、術後成績も安定しています。
また、県内の肩関節鏡手術の多くをわれわれが引き受けています。若年層に多い反復性肩関節脱臼や、50代後半〜70代に多い腱板断裂の修復術などが主です。
治療面では、こうした自分の骨を温存する手法を積極的に取り入れています。
ただ、どうしても骨の温存が難しい場合には、人工関節置換術を選択することができます。大学病院では膝と股関節の人工関節置換術がメインです。
2014年にはリバース型人工肩関節置換術が日本に導入され、従来は治療方法がないとされていた腱板断裂性肩関節症の患者さんに対しての人工関節置換術も注目されています。近い将来、当院の整形外科でも取り入れる予定です。
―今後力を入れていきたい研究について教えてください。
脊椎と肩関節の研究を各グループで進めています。
脊椎では、腰椎に含まれた遺伝子やタンパク質の成分分析から、疾患の重症度を導き出すという研究です。
肩関節では、腱板断裂に対する治療法の開発に取り組んでいます。腱板断裂とは、正常時は軟骨層を介して骨に結合している腱が、変性や外傷によって断裂してしまう症例です。主な原因は上腕骨に付着した腱の変性です。特に上肢帯筋のひとつである棘上筋は、骨や靭帯と摩擦しやすい状態で常に稼働状態にあり摩耗し擦り切れてしまうことがあるのです。
現在は、断裂した腱の断端をもともと付着していた骨に縫い付けるのが一般的な手術法として知られていますが、一度断裂した腱と骨の間には、正常組織でみられる軟骨層の再生がありません。術後20%前後の患者さんにみられる再断裂の一因と考えられています。
どうすれば正常時に近い構造に戻し、再断裂のリスクを減らせるのか。薬剤や遺伝子データを通した研究はこれからも変わらぬテーマです。少しずつですが進歩を重ね、いずれは臨床の場へつなげたいと考えています。
熊本大学大学院生命科学研究部 整形外科
熊本市中央区本荘1-1-1
TEL:096-344-2111(代表)
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