「夢」と「誇り」を持って医師人生を歩んでほしい
1982年大阪市立大学医学部卒業、内科学第三教室入局。同准教授、米カリフォルニア大学アーバイン校客員助教授などを経て、2007年から現職。
自分の子どもに、どんな職場で働いてほしいか―。教授になって12年、教室づくりのベースとして、常に頭に置いてきた。「誰もが医師人生をまっとうできる環境を整えるのは教授の役割」と語る。
「できないこと」より「できること」
―「働きやすい環境」を構築されてきました。
「夢と誇り」をモットーに医局づくりに取り組んできました。夢を持ち、自分や組織を誇りに思うことができる医師人生を送ってほしい。それが、社会と患者に貢献し、大学の使命を担うことにつながるはずだ、という思いがあります。
そのためには、医局員一人ひとりの生き方まで考え、教育や人事をすることが重要です。特に、キャリア形成と子育てを両立できる職場環境は欠かせません。緊急も多く敬遠されがちな消化器内科ですが、ここには育児中の女性医師も多く在籍し、産休期間、勤務時間もそれぞれの事情に合った働き方をしています。
着任後、まず始めたのは男性医師の意識改革でした。「子育てなどを理由に女性医師が離職すれば、医師不足が加速して、男性医師も今よりもっと大変になる」ということを、あらゆる場で伝え続けたのです。
それまでの大学医局や病院は、つい、当直など子育て中の女性医師が「できないこと」に目を向けがちでした。でも、「できる時」に「できること」で精いっぱい力を発揮してもらえば、その分、他の医師が休んだり他のことに時間を使えたりする。それは、例えば男性医師が病気になった時も同じことなのです。
「しわ寄せがくる」と陰で文句を言う者がいると聞けば、すぐにそれは間違っていると諭しました。今では、その意識が医局だけでなく関連病院も含めて根付いていると感じます。
ただ、誰もがキャリアアップを目指せる環境づくりのためには社会の制度も意識も、もっと変わる必要があります。われわれの医局の取り組みからも、「医師の働き方」に一石を投じていければと思います。
醸成されたリサーチマインド
―研究面でも注目を集めています。
医局員のがんばりに加えて、人的に余裕が生まれたこともあり、就任当時はほとんどなかった海外での学会発表も増え、今年は米国消化器病週間(DDW) に35の演題を発表するまでになりました。演題数は世界でもトップクラスです。
学会で発表し、世界で評価される経験は、充実感とやりがいにつながります。良い連鎖が生まれ、しっかりとしたリサーチマインドを持った医師が育ってきている実感があります。
現在、教室ではiPSを用いた難治性疾患の個別化医療、脂肪幹細胞による肝硬変の治療、内視鏡でのすい臓がん治療など革新的な研究を進めています。今後も世界に発信していきたいですね。
働き方改革の起点は男性医師の意識改革
内視鏡開発でも世界をけん引
―カプセル内視鏡の開発でも知られています。
2007年に保険適用となった経口のカプセル内視鏡は、患者の身体的な負担軽減に加え、従来の内視鏡では「暗黒大陸」とまで呼ばれていた小腸内も検査できる医療機器として日常臨床に定着しました。しかし、現行のカプセルは消化管の蠕動運動により体内を進むため、方向や位置を制御できない。胃など空間の大きな臓器では観察が難しいといった課題もあります。
そこでわれわれは、胃も含めた全消化管の観察を一度にできる「自走式カプセル内視鏡」の開発に取り組んでいます。現行のカプセル内視鏡に磁石を内蔵したシリコン製のヒレを付け、磁場を発生させる装置によって動きをコントロール。すでにボランティアによる臨床研究も行い、1〜2年以内の実用化も視野に入れています。成功すれば患者の健診時の負担は大きく軽減されるでしょう。
2020年には第99回日本消化器内視鏡学会の大会長を務めます。テーマは「世界に発信する内視鏡」としました。日本の内視鏡技術は世界をリードしています。大会ではAIやロボットを搭載した革新的な内視鏡技術の開発話や、高齢者への治療の課題などがトピックになると思います。
大阪医科大学 内科学第二教室
大阪府高槻市大学町2-7
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