あらゆる人やロボットとの"共生"の未来を描きだす
1970年東北大学医学部卒業。大分医科大学(現:大分大学医学部)脳神経外科助教授、国立病院機構西別府病院名誉院長、財団法人湯布院厚生年金病院院長、社会医療法人敬和会大分岡病院院長などを経て、2013年から現職。
手術支援ロボット「ダビンチ」やAI技術の導入、介護用見守りロボットなどが注目される昨今。いち早くリハビリテーション用のロボットスーツ「HAL®(Hybrid Assistive Limb)」を取り入れたのが「社会医療法人敬和会」だ。導入を進めてきた森照明統括院長に聞いた。
―ロボットスーツHAL®について教えてください。
脳卒中患者や脊髄損傷患者の歩行再建を目的に、筑波大学の山海嘉之教授が考案されました。
通常、人が動こうとするとき、その意思は微弱な電気信号となり、体内の神経を通じて脳から筋肉へと伝達されます。HAL®はその仕組みを用いて、生体電位信号を脚に装着したセンサーで人工的に感知させ、信号に応じて筋肉が反応するとロボットが作動して歩行をアシストする、画期的なテクノロジーです。
この開発により、半身まひで寝たきり状態だった人でも、膝の曲げ伸ばしや立ち上がり、起立、歩行の練習が可能になりました。
―世話人代表を務める「大分県医療介護ロボ・HAL研究会」の取り組みとは。
2009年、湯布院厚生年金病院院長を務めていた当時に県内で初めてHAL®を導入。同時に先進リハビリケアセンターを設立し、高度な医療を提供できる環境を目指しました。
大分岡病院赴任後は、「東九州メディカルバレー構想」と「大分県医療ロボット・機器産業協議会」の協力を得て「大分県医療介護ロボ・HAL研究会」を立ち上げました。一層、医療ロボットを発展させるため、現在は産学官で連携して活動する九州先端リハビリテーション・ケアクラスター推進機構も設立しました。
研究会には大分リハビリテーション病院や黒木記念病院など11施設が参加しています。主な活動は、年に4回のセミナーの開催。いまだデータの少ないHAL®の活用方法や運用、適応基準などを多施設間で検討し、評価基準の統一や効果などの意見交換をしています。
これまで15回のセミナーを開講し各セミナー50人の関係者がディスカッションしてきました。現在は集まった約50例のデータをもとに、英語論文を発表しようと動き始めているところです。
―昨年10月に主催された全国研究大会について。
第8回ロボットリハビリテーション・ケア研究大会in大分と第5回大分県医療介護ロボ・HAL研究会を同時開催した今回は、特別講演やシンポジウムなどを企画し、2日間で約200人の参加者を得ました。
テーマは「ヒト、AI・ロボット共生の未来〜医療・介護・リハビリテーションを中心に〜」。2025年には3人に1人が65歳以上。さまざまな働き方が受容されるべきですし、ロボットなどテクノロジーを含め、多様性(ダイバーシティ)の受容が不可欠であり、それらを目指しました。
特に、地場産業が開発した医療機器紹介の特別企画では、予定時間をオーバーするほど大変な盛り上がりをみせました。車いす用着脱式足こぎユニット「こいじゃる!」や転倒時の骨折を防ぐウエアなどユニークなアイデアも多数紹介されました。
2018年、神経難病に対するHAL®を使ったリハビリが保険適用になりました。子ども対応のサイズもでき、小児まひのリハビリの現場でも活用が期待されています。
今後の課題はHAL®の重さの軽減、そして使いやすさの改良です。現在はリハビリスタッフ2人で装着しており、将来はズボンを履き替えるような形で簡単に着脱できることが理想です。
人間が人間らしい尊厳を持っていかにロボットと一緒に生きていくか。多様性を受け入れ、患者さんのために、地域のために何ができるのか。これからも、あらゆる角度から考えていきます。
社会医療法人敬和会
大分市西鶴崎3-7-11
TEL:097-522-3131(代表)
http://keiwakai.oita.jp/