シームレスながん医療で苦痛を和らげたい
1977年京都大学医学部卒業、1986年同大学大学院卒業(医学博士)。米スタンフォード大学放射線腫瘍科客員助教授、京都大学大学院医学研究科教授、同大学医学部附属病院がんセンター長などを経て、2016年から現職。
設立から100余年、2世代3世代にわたって親しまれてきた和歌山の「日赤さん」。柱は高度救命救急と、がんを中心とした高度先進医療。放射線治療の第一人者であり、がん医療の強化に尽力してきた平岡眞寛院長に思いを聞いた。
―今秋、緩和ケア病棟「ひなげし」を開設。
がんは国民の2人に1人がかかる国民病で、死因の3割を占めます。6割が治る一方、逆に4割は治らない。患者さんや家族の負担はいかばかりでしょう。
治療法がなくなれば、「支え癒やす医療」がさらに重要になります。そのプラットホームとして緩和ケア病棟をつくりたいという思いは前院長時代からあったのですが、ようやく準備が整いました。場所は眺望が広がる最上階フロア。他の施設を見学して工夫を取り入れつつ、休床病床を改修。全室個室20床です。
これで検診から診断、集学的治療、社会復帰への支援、そして終末期を含む緩和医療まで、一貫して取り組める体制ができました。患者さんに対し、より全人的にアプローチしていければと思っています。
―がん医療の特長を聞かせてください。
3本柱である手術、薬物治療、放射線治療を漏れなく実施。手術に関しては、消化管外科や肝胆膵外科を新設するなど、この2年半で強化しました。食道がん、胃がん、大腸がんに加え、肝臓、膵臓、胆管の難治がんまでカバー。そのほか、肺がんや婦人科がんなどにもエキスパートがそろっていて、充実した布陣です。
内視鏡手術の症例も豊富です。ダビンチ手術に関しては、特に上部消化管領域でメンターサイト(ダビンチ手術見学施設)の一つとして、若手育成にも力を入れています。
放射線治療については、去年秋に最新鋭の機器を導入。ピンポイントで照射する定位放射線治療と、強度変調放射線治療(IMRT)の二つの高精度放射線治療で各科のニーズに応えています。定位放射線治療は、早期の肺がんや肝臓がん、脳転移のがんに非常に有効。IMRTも前立腺がんや頭頸部がん、耳鼻科系のがんや子宮がんで飛躍的に増えています。
そして薬物療法。消化器、呼吸器、乳腺、血液、それぞれの診療科が熱心にがんばっています。免疫チェックポイント阻害薬を使用する症例も多いですね。
がんゲノム医療も始めました。厚労省が指定した中核拠点病院である京都大学の連携病院として、乳がんや卵巣がんといった遺伝性がんの治療に取り組んでいきます。
現在の悩みは、腫瘍内科医がいないこと。できるだけ早く招けるようリクルートを続けています。
課題はありますが、がん医療に必要なものは、ほぼそろってきた。今後はいかにシステマティックに運営するかを考える必要があると思っています。
―専門である放射線治療を推進しています。
放射線治療の総患者数は500人ほど。うち高精度放射線治療の割合は飛躍的に伸びており、4割近くに達しています。治療には、治療計画を作成し高度技術を支援する医学物理士も欠かせない存在です。専門医が4人、医学物理士が4人いるのは珍しく、大学病院並みでしょう。
一方、県としては放射線治療が弱いのも事実。そこで去年の春に立ち上げたのが放射線腫瘍研究会。和歌山県立医科大学や近隣病院のほか、泉州地域の一部の病院にも参加してもらっています。放射線治療が十分に評価されない風潮もある中、地道にがんばっているメンバーの励みになれば本望です。
先日4回目の集会を開催しましたが、次回からは医師や技師だけでなく看護師にも声をかける予定です。裾野の広がりとともに、治療がより活発になればうれしいですね。
日本赤十字社和歌山医療センター
和歌山市小松原通4-20
TEL:073-422-4171(代表)
https://www.wakayama-med. jrc.or.jp/