出生率日本一を支える周産期情報ネット「OPeN」
1999年自治医科大学医学部卒業。沖縄県立那覇病院附属南大東診療所、同県立八重山病院、同県立北部病院などを経て現職。2016年琉球大学大学院医学研究科博士課程修了。
出生率日本一を続ける沖縄県。ただし、周産期医療センターを持つ医療機関は限られており、NICUは常に満床状態にあるという。重症の患者の搬送や慢性的な医師の不足にどう対処しているのか。その取り組みについて尋ねてみた。
―沖縄の周産期の現状を教えてください。
沖縄県の出生数は、1987年に2万人を割ってから、ここ10年は1万7千人前後で推移しています。数としては全国一を維持していますが、実は低出生体重児の数も全国一。1998年以降この状態が続いていますが、原因はいまだに解明されていません。さらに、県内の分娩取扱施設が現在35施設。13年前の2005年は43施設あったので、減少しています。女性医師は増えていますが、開業している男性医師の高齢化によって減ってしまっているのです。
沖縄県は北部、中部、南部、宮古、八重山の五つの保健医療圏に分かれていますが、エリアが広く、医療機関も南部に集中しています。
そこで沖縄県全体を一つとして、それぞれの周産期母子医療センターで役割を分担。周産母子センターがある琉球大学医学部附属病院では、人工心肺が必要といった重症呼吸器疾患の患者をすべて受け入れています。
総合周産期母子医療センターがある県立南部医療センター・こども医療センターは、先天性心疾患や小児の透析、離島の患者を、同じく県立中部病院は中部・北部エリアの患者を受け入れ。その他、地域周産期母子医療センターの沖縄赤十字病院、那覇市立病院があり、これらの施設すべて合わせてNICUが54床、GCUが48床。常に満床の状態が続いています。
―満床をどのように解決しているのでしょうか。
2014年4月から、複数の医療施設間でリアルタイムに空床情報を共有できるOPeN(沖縄県周産期情報ネットワーク)を運用しています。従来は、電話とファクスで空床情報を共有していましたが、OPeNができたことで空床情報や搬送者情報の登録・閲覧などがリアルタイムでできるようになりました。これは分娩取扱医療機関からも閲覧が可能です。
私の実感ですが、27週未満の早産や体重500〜600gといった超未熟児、心臓病の子どもなど重症の患者が増えている気がしています。小児科とも協力しつつ、効率的にベッドを使うために、お互いの空き状況を把握しておく重要性が増してきているのです。
また医師不足も問題で、若い人が育ってきてはいますが間に合っておらず、減るばかり。特に北部や離島は深刻な状況です。しかし、沖縄県では患者のたらいまわしは一切ありません。このOPeNをはじめ、各医療機関が常に連携をとることで、人手不足や満床問題に対応しています。
―琉球大の役割は。
精神疾患合併妊娠も扱っています。沖縄では産婦人科、精神科ともにある病院はごくわずかで一般的な精神科の先生では、妊婦に慣れていないこともあり対応が難しいと思います。抗うつ剤や統合失調症の薬、睡眠薬を服用している妊婦の場合、服薬を中止すると症状が悪化し、最悪の場合は自殺未遂に至ったり、赤ちゃんが離脱症候群になったりといった深刻な問題が発生します。琉球大では、精神科の先生と協力しながら、これらの問題に対応できています。
他にも、甲状腺の疾患や糖尿病がある方など、重症の妊婦が沖縄全域から集まってきます。助産師の資格を持つ看護師も、精神疾患のある妊婦をはじめ、リスクの高い患者へのきめ細かなフォローなどにあたってくれています。
産婦人科は厳しいイメージがありますが、それ以上にやりがいがあるセクションです。来年度は研修医が多く入ってくる予定です。少しでもそのことを伝えられたらと思っています。
琉球大学大学院医学研究科 女性・生殖医学講座
沖縄県中頭郡西原町上原207
TEL:098-895-3331(代表)
http://www.ryukyu-obgyn.jp/