多焦点眼内レンズが地域の課題を解決
和歌山県の高齢化率の状況は全国8位。近畿府県で見れば最も高く(2018年1月1日現在)、ここ橋本市でも、高齢化に伴うさまざまな課題が表面化している。医療法人涼悠会・留守良太理事長は「眼科医療の発展」という側面から地域を支えるべく奮闘する。
―どのような患者さんが多いのですか。
やはり、多くが高齢の患者さんですね。父の急逝によって私が医院を継ぐことになり、1996年、福岡から故郷の和歌山へ戻りました。その頃、こんなことがあったのです。
患者さんは網膜剥離がかなり進行し、一刻も早く手術しなければ失明の危険がある。そんな状況にありました。当院には手術設備がなく、私が非常勤講師を務めている大学病院で手術したいと話しました。
ところが「遠くまで行って手術を受けることはできない。家族に迷惑をかけるわけにはいかない」とお断りされたのです。
地域で手術できる環境が必要だー。そう強く実感した私は、手術室を開設。さまざまな眼科疾患の治療に対応できるよう、環境を整えていったのです。
―治療の現状について教えてください。
ものを見るときの「レンズ」の役割を果たしている水晶体が濁ることで十分な光が届かず、見えにくくなる白内障。手術では、濁った水晶体を取り除き、人工の水晶体である眼内レンズを挿入します。
眼内レンズには保険適用の「単焦点眼内レンズ」と先進医療の「多焦点眼内レンズ」の2種類があります。単焦点眼内レンズは遠く、あるいは近くの「ある1点」はよく見えますが、ピントを調節する機能がありません。見る対象の距離に応じて眼鏡が必要です。
多焦点眼内レンズは、ここ10年ほどで導入された「近くと遠くの両方」にピントを合わせることができるレンズです。どちらかといえば、ターゲットは都会で暮らす人々だったのではないでしょうか。
そんなイメージからすると、果樹園などを営む農家の方がとても多いこの地域は、都会とは対照的な環境です。でも、実は多焦点眼内レンズのニーズに合致する場所でもあったのです。
遠くの枝ぶりを見て、次に手元の授粉の状況を見てと、視線は遠くと近くを行ったり来たりします。
そのたびに老眼鏡をかけたり外したりを繰り返すのは大変ですし、ビニールハウス内では「眼鏡が曇ってしまうので困っている」という声もよく聞きます。
まさに、多焦点眼内レンズはこうした課題を解決するものと言えます。当院で白内障手術を受ける患者さんの3割ほどが多焦点眼内レンズを選択します。
先進医療として承認されているものですから、少なくない負担が必要です。患者さんにはレンズの違い、費用について十分に理解してもらえるよう、丁寧な説明を心がけています。
また、術後のスムーズな回復には、きめ細かなトレーニングや指導といったフォローが大切です。手術の前後で、患者さんの目のピント調節の感覚が変わるからです。手術の精度を高めるとともに、患者さんの満足度を重視した取り組みにも力を入れています。
―今後の予定は。
グループのクリニックとして、JR大阪駅に直結のグランフロント大阪北館地下1階で「梅北眼科」を運営しています。来年、橋本市に近い岩出市にも新たなクリニックを開院する予定です。
これまでなかなかトメモリ眼科・形成外科に来ることができなかった地域で暮らす患者さんにも、良質な医療を提供していきます。
近畿大学との共同研究で開発した緑内障のスクリーニング装置も積極的に活用していきたいですね。暗室が不要で、スピーディーな検査が可能です。失明のリスクから1人でも多くの患者さんを守りたいと思っています。
医療法人涼悠会トメモリ眼科・形成外科
和歌山県橋本市市脇5-4-23
TEL:0736-32-9358
http://www.tomemori-ganka.com/