横断的なチーム力でベストな治療法に導く
日本初のがんを専門とする機関「癌研究会」として発足して110年。名実ともに国内のがん医療をけん引する存在だ。患者は関東圏を中心に全国から。「頼られる病院」である理由はどこにあるのか。今年7月に就任した佐野武病院長に聞いた。
―がん医療で大切なのはどのようなことでしょうか。
いまや多くの医療機関で取り入れられるようになった概念ですが、当院は「チーム医療」をずっと実践してきた歴史があります。
1人の患者さんを当院の医師たちが囲んで、病院全体で必要な医療を提供しています。キャンサーボードなども日常的に活発で、各診療科、部門が常に治療方針を共有している。「そうなっていった」のではなく、本来「がん医療はそうでなければ成り立たない」のですね。
例えば、肝臓がんの治療には開腹手術、ラジオ波焼灼療法、あるいはカテーテルを用いた肝動脈塞栓療法など、さまざまな選択肢があります。
受診した診療科が方針を決めて治療したが、それが患者さんにとって必ずしも最適な選択肢であるとは限らない。診療科間の連携がなければ、そんなケースも起こり得るでしょう。
また、初めて受診するときに「外科にかかると何でも切られてしまうのでは」「内科だとちゃんと治療してもらえないのでは」といったイメージをもっている患者さんもいます。
当院なら、最初に担当したのがどの診療科であったとしても、患者さんに対するベストな治療法を提案することができます。がん専門病院としての大きな強みだと思います。
―力を入れている取り組みを教えてください。
前院長を務めた山口俊晴先生(現:名誉院長)は、消化器センター長だった時代に「早い・うまい・安い」というキャッチフレーズを打ち出しました。
「早い」は「治療まで待たせない」こと。「うまい」は「高度な医療技術がある」こと。そして「安い」はもちろん医療費のことではなく「安全である」ことを指します。
山口先生は、第一に患者さんの初診から手術までの時間の短縮化に注力されたのです。その当時、私は国立がんセンター中央病院に勤務していました。さまざまな事情から、2〜3カ月ほど待たなければ手術を受けられない患者さんが少なくありませんでした。
あまり待たせることはできないと判断した患者さんのことを山口先生に相談すると、かなり短期間で手術を実施してもらうことができました。積極的に麻酔科医の確保に動き、手術室を増設するなど、山口先生は着実に「早い」を実現していったのですね。
それが現在も続いているわけです。患者さんにはあらかじめ注意事項などを伝えておいて、初診の日に内視鏡検査やCT、血液検査など主な検査を終えます。
それから数日内にさらにいくつかの検査を受けていただいて、最初の受診から1週間程度で、治療方針を決定します。
手術までは平均的に2〜3週間。できるだけ1カ月以上はお待たせしないよう心がけています。
近年は、安全性を最も重視した「安い・早い・うまい」と順番を入れ替えているものの、この3点が不可欠な要素であることは変わりません。設備やシステムの整備などを含めて、変化を恐れない「機動力」も私たちの特徴の一つではないかと思います。
―人材の育成についてはどのように考えていますか。
自分の現在の立ち位置に関して、客観視できることが大切だと思います。
今、やっていることが本当にベストなのか。海外には自分が知らない技術があるかもしれない―。がんの領域では、思いもよらなかった結果が出ることがよくあります。だからこそ常に周りを見渡せる人間であってほしいと思います。
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