予防歯科の新たなモデルを福岡で確立したい
国は「80歳で20本以上の自分の歯の残存」を目指す「8020(ハチマルニイマル)運動」を推進。達成率は5割超だが「現場としてはギャップを感じる」と、つきやま歯科医院専門医療センター天神の築山鉄平院長。予防歯科普及に向けた「仕掛け」の一環として、歯科向けソフトウエアの開発・販売を手掛けるミックとの連携を進めている。
なぜ「予防の価値」が浸透しないのか?
―歯科医療の現状は。
築山鉄平院長(以下:院長)
文科省の「学校保健統計調査」によると、12歳の永久歯の平均的なむし歯の本数は約「0・8本」。1984年度の調査開始から年々減少しています。問題は「その後」。成人を迎えるまでの間に、歯の健康に対する意識や習慣が大きく乱れていくのが現状です。
例えば、海外にはこのようなデータがあります。80歳の時点で残っている平均的な歯の本数はスウェーデン21本、米国19本、そして日本は12本。実際のところ多くの人は12本に満たないのではないかと思います。「8020をクリアしている国民がおよそ2人に1人」と言っても、私たちには達成感がありません。
ミック・大石慎一郎課長(以下:大石)
要因として大きいのは制度でしょう。予防歯科先進国のスウェーデンでは定期健診への意識が高く、予防に取り組むことが当たり前です。そして治療費が非常に高い。定期的に歯をチェックしていることが証明できないと保険金を受け取ることはできないなど、国としての制度設計がしっかりとなされています。
院長
少々の負担はあるけれど、定期的なメンテナンスで健康な歯を長く維持するか。それとも重度の歯周病などで歯を失い、痛い思いをして10万円単位の治療を何度も受けるかー。
どちらがいいかと聞かれたら、きっと前者を選ぶでしょう。けれども「歯は悪くなったら治療する」というのが一般的な認識。命に関わるわけではないし、とりあえず早く削って終わりにしたいと考える。
磨く順番、場所、ブラシを当てる時間、角度などをイラストでナビゲーションしてくれるキュアライン
専用サイトはこちら
そもそも予防のためのメンテナンスは保険適用外。「歯の健康に対する価値」を見いだしづらいのです。リタイアしたビジネスパーソンの「健康面で後悔していること」の1位がダントツで歯だったという調査もあります。
大石 つきやま歯科医院の築山雄次理事長とお話ししたとき、「患者さんが10人いれば10通りのアプローチがある」とおっしゃっていたのが印象的でした。人によってリスクは異なり、それぞれに適したメンテナンスや治療があるのだと。
なぜか「うちは歯が強い家系だ」と思い込んでいる人もいます。もちろん、それはまったくの誤解。大切なのは歯科医師による「自分に合うメンテナンス」を継続することです。
院長 疾患のリスクをきちんと評価して、その内容に応じた医療サービスをコントロールしていくことが必要です。ミックさんが展開するサービス「キュアライン」は、予防歯科の価値を根付かせていく後押しになると思います。
「未来型」の歯科医療を提示する
―サービスの内容は。
大石 歯科医院で教わった歯の磨き方を、自宅でも再現できるのがキュアラインの特徴です。患者さんの口腔状態に合わせた磨き方を歯科医師が電動歯ブラシに設定。どの場所にどの程度の強さでブラシを当て、どれくらいの時間をかければいいのか。スマホのアプリで「テーラーメードの処方」を確認しながら迷わず磨くことができます。
歯磨きの情報はクラウド上で共有されますので、歯科医師は、セルフケアがちゃんとできているかどうか分かります。データに基づいたアドバイスを定期的に受けることで、患者さんは自分のウイークポイントを理解できるのです。
院長 ポイントはキュアラインと歯科医院での継続的なメンテナンスがワンセットであること。なぜなら歯の磨き方は変化していくからです。例えば3カ月前に苦手だったところが上手になり、今度は別の場所が苦手になる。私たちプロですら、自分の注意すべき点が刻々と変わります。
大石 患者さんが自分で電動歯ブラシを設定することはできません。市販もしていません。必ず歯科医院を経由して、そのときのコンディションに適した処方で使用していただくサービスです。
院長 これまでの歯科医療の中心は、問題をできるだけ早く見つけて治療することでした。当院では時間をかけて、歯の磨き方、食生活、唾液の性質といった情報を総合的に判断し、むし歯や歯周病になる確率を導き出すことができます。
「防げる」リスクをマネジメントしていくのがこれからの歯科医療。キュアラインは「未来型」の予防歯科の一つの方向性だと期待しています。
―今後、大切なことは。
大石 口腔ケアへの関心が高まり、予防歯科を広めようと動き出している自治体もあります。ただ、まだ歯科医院と行政とのつながりは深くはない印象です。私たちのような企業も積極的に参加して、多様な意見を集めることが第一歩。熱い信念を共有し、共に考えることが大事だと思います。
院長 東京大学国際保健政策学の渋谷健司教授は、歯科にも全人的なケア「ホリスティックケア」の視点を取り入れることが大切だと提唱されています。
私は「ホリスティックケア福岡モデル」を確立したい。地域のキーパーソンと協働し、実現に突き進めたらと思います。キーワードはいかに予防歯科を若い層の習慣として定着させるか。学童期の意識から根本的に変えるつもりです。
医療法人 雄之会 つきやま歯科医院 専門医療センター天神
福岡市中央区大名1-14-8 バルビゾン93 2階
TEL:092-738-8028
http://www.tenjin-tdc.com/
株式会社ミック
東京都新宿区新宿1-8-5
TEL:03-3350-1661(代表)
http://www.mic.jp/