新たな皮膚疾患の概念 「自己炎症性角化症」とは?
愛知県の皮膚科専門医の数は全国平均を下回る。例えば人口およそ40万人の岡崎市や、半田市の皮膚科の常勤医は「ゼロ」。そうした状況の中、特に重症の皮膚疾患の診療を支えているのが藤田医科大学の皮膚科だ。杉浦一充教授の研究面にクローズアップする。
―力を入れている研究について教えてください。
当皮膚科の1日当たりの入院患者数は31.8人(2017年)で、国内でも上位です。あらゆる皮膚疾患にしっかりと対応できる体制を強みとしています。
私自身は、膠原病(こうげんびょう)や乾癬(かんせん)を専門分野としています。研究対象の一つが、指定難病である慢性の炎症性皮膚疾患「汎発性膿疱性乾癬」です。
最も頻度が高い乾癬である尋常性乾癬とは異なるタイプのもので、汎発性膿疱性乾癬は皮膚に膿がたまった「膿疱」がたくさん出現します。発症のピークは小児期と30歳代です。
急激な発熱があり、全身に膿疱が見られ、関節の痛みなどの症状が現れます。重度の合併症が起こることで命に関わる状態に陥ってしまうこともあります。
2011年、チュニジアとフランスの合同研究チームによって、汎発性膿疱性乾癬の特殊な病型とされてきた「家族性汎発性膿疱性乾癬」の原因が「インターロイキン36(IL-36)受容体阻害因子欠損」であることが報告されました。
IL-36受容体阻害因子欠損を病因とする家族性汎発性膿疱性乾癬は、英語名を略して「DITRA」とも呼ばれています。
ならば、汎発性膿疱性乾癬の原因も遺伝性ではないか。当時、名古屋大学皮膚科にいた私はそう考え、秋山真志教授らとともに研究を開始。2012年、国内1例目のDITRAを報告しました。
国内の多施設による共同研究を推進し、実に8割を超える日本人の「尋常性乾癬を併発しない汎発性膿疱性乾癬」の原因がDITRAであることを解明。2013年に研究成果を公表したのです。
―2017年に提唱した炎症性角化症の新たな概念とはどのようなものですか。
汎発性膿疱性乾癬は、自然免疫に関係する一つの遺伝子の変異に起因する「自己炎症性疾患」に分類されます。代表的なものにNLRP3遺伝子の変異によるクリオピリン関連周期熱症候群があります。
私が取り組んでいる汎発性膿疱性乾癬に関連する遺伝子変異の研究として、DITRAともう一つ「CAMPS」があります。
CAMPSはCARD 14遺伝子の変異で尋常性乾癬や関節症性乾癬などを幼少期に発症します。
DITRA、CAMPS、そしてNLRP1遺伝子の変異による「FKLC」を加えた三つの疾患。炎症を伴い、皮膚の角化を引き起こす皮膚疾患は従来、「炎症性角化症」と分類されてきました。
一方で小児科の視点に立ちますと、自己炎症性疾患は子どもの発熱や関節症状の副次的な皮膚疾患として生じる「じんましん」を呈します。
炎症性角化症とじんましんでは明らかに皮膚症状が異なりますので、皮膚科の立場から「自己炎症性角化症」を提唱しました。
―切り分ける必要があったということですね。
学問とは、いわば「分類すること」です。まずはDITRA、CAMPS、FKLCを「自己炎症性角化症」という新しい皮膚疾患の概念として提唱しました。
現在、自己炎症性疾患には18の疾患が含まれています。炎症性角化症の中にも今後、自己炎症性角化症に分類される疾患が増えていくと考えられます。
まだ病因が分かっていない皮膚疾患が数多くあります。引き続き病態の解明、治療法開発への貢献を目指します。
藤田医科大学医学部 皮膚科学講座
愛知県豊明市沓掛町田楽ケ窪1-98
TEL:0562-93-2111(代表)
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