【起こってしまった医療事故】「その後」をどう支えるか?

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Healsシンポジウム「傷ついた当事者へのケア」

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10月21日、一般社団法人医療対話連携支援プロジェクト「Heals(ヒールズ)」(永尾るみ子代表)のシンポジウム「傷ついた当事者へのケア」が大阪市内で開かれた。医療事故の関係者が苦しめられることになる「心」の課題。その支援のあり方をめぐる看護師、大学教授らの講演に63人の参加者が耳を傾けた。

 日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター)が公表した「医療事故調査制度の現況報告」によると、10月の相談者の内訳は医療機関が77件、遺族等が76件とほぼ同数(その他・不明14件)。相談内容で最多は「医療法で定められた医療事故に該当するか」という「医療事故判断」に関するものだが、医療機関が7件、遺族等は72件と大きな開きがある。

 医療事故の判断とセンターへの報告は医療機関が行う。遺族がセンターに届け出る仕組みはないため「納得できないケース」が一定数あることがうかがえる。

 制度の目的は再発防止であり、個人の責任追及ではない。収集した医療事故の調査結果は「医療事故の再発防止に向けた提言」としてまとめられている。

 情報の共有は「次の医療事故」を未然に防ぎ、医療者、患者を守ることにつながる。しかし、すでに起きてしまった医療事故の「その後」の当事者たちをどうサポートしていくか。相互理解をいかに深めていくか。その議論はなかなか深まらないのが現状だ。

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永尾るみ子 氏

◎対話を重ねることで気持ちが変化した

 Healsは、医療事故に直面した患者と家族、医療者の「傷ついた当事者」のケアを目的に「遺族」である永尾氏が設立。医療者が相互に助け合うピアサポートシステムの導入支援や電話相談などに取り組む。

 シンポジウム当日は永尾代表、「医療法学」を専門とする浜松医科大学の大磯義一郎教授、北里大学病院の医療メディエーター・川谷弘子氏、早稲田大学法学学術院の和田仁孝教授ら設立メンバーが講演した。

 永尾氏には病院で幼いわが子を失った経験がある。同様の「傷」をもつ家族の会で自身のことを話し、また「ビフレンダー」(トゥー・ビー・フレンド=友達になる)として他者の話を聞くことで「気持ちが整理された」と語った。

 医療者との対話を通して根強かった不信感が少しずつ薄らぐのを感じたという。心の変化が「遺族と医療者との架け橋になれないか」という考えを生んだ。

 40代で看護師の資格を取得した。医療者として働くことでミスが起こりうる恐さを肌で感じることができた。「みんな自分が医療事故を起こして患者が亡くなったら辞めると言う。誰かを救いたいという思いで医療者になった人を助けなくていいのか」。

 医療事故に関わった医療者は孤独との戦いを強いられる。たとえ遺族に謝罪したいと望んでも、対面の機会をつくるのは容易ではない。守秘義務があるため、つらい思いを人に打ち明けることもできない。当事者が不在のまま、弁護士らの主導で収束するケースも少なくない。

 「中傷され職場を追われたり、死を選んだりする人もいる。患者の遺族に寄り添う仕組みはあるが、医療者にはない。Healsの柱の1本は医療機関の職員をピアサポーターとして養成すること。医療者の支援と遺族の支援は不可分な関係にある」と結んだ。

「Healsの果たすべき役割」 早稲田大学法学学術院・和田仁孝教授

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早稲田大学法学学術院・和田仁孝教授

 米国のピアサポートシステムの構築はハーバード大学などがリードしてきた。

 医療事故の影響は事故に関わった個人にとどまらない。働き続けることができなくなれば周囲の負担も増し、チームの士気も下がるだろう。医療の質の低下にもつながると考えられる。

 2016年、医療事故当事者を対象に、米国のジョンズホプキンス大学が実施したアンケートでは、ピアサポートシステムがなかったとしたら「辞める」「休職している」と多くが答えている。その経済的な損失額は億単位であるという。

 近年、日本でもピアサポーター制度を導入したいという医療機関が増えつつある。Healsは講演や研修など導入支援に力を入れている。例えば医師会や地域での導入といった取り入れ方もあるだろう。

「医療者への社会的反応」 浜松医科大学・大磯義一郎教授

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浜松医科大学・大磯義一郎教授

 1999年、患者の取り違えなどの医療事故で社会的な関心が高まり、医療者は激しいバッシングを浴びた。先進国ではあまり見られない傾向として、日本の医療者は「刑事責任」を問われることが多くなった。

 捜査の過程で医療者は犯罪者のように扱われ精神的なダメージを受ける。若手の医療者なら、その後のキャリアや人生そのものに与える影響も大きいだろう。

 報道は一時ほど過熱気味ではなくなり、医療者の立場に一定の理解も示されるようになってきた。しかしながら、裁判では「医療の知識が不足しているのではないか」と疑問を感じる判決は少なくない。

 萎縮医療、医療崩壊につながりかねない。結果だけではなく、医療行為の過程をしっかりと見極めていくことが大切だ。

「傷ついた医療者/事例」 北里大学病院医療メディエーター 川谷弘子氏

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北里大学病院医療メディエーター 川谷弘子氏

 労働災害の確率を示した「ハインリッヒの法則」は「1件の重大な事故の陰に29の軽微な事故が隠れている」としており、さらにその背後には「300の小さな失敗」が存在すると唱えている。私はその「小さな失敗」と傷ついた医療者たちの姿が重なって見える。

 1991年に発表された米国のあるアンケート調査によると、250人の若手医師のうち半数が自身のミスのことを指導医に伝えていた。残る半分は伝えていなかった。また、4分の1は家族とミスについて話し合ったという。

 この研究結果から、医師は「自分が失敗したことをなかなか口にしない」ことが分かる。同研究は「ミスを素直に認める環境づくりが医療事故の再発防止につながる」としている。果たして現代の医療現場ではどうだろうか。


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