"共生社会実現"を見据え新病院建設へ
1993年の国立療養所東栃木病院との統合、2004年の国立病院機構への移行による独法化。こうした流れの中で宇都宮病院は低空飛行を続けていた。存続の危機がささやかれるほどの状況から一転、10年連続の黒字。「未来を見つめる組織」へと変わった。
―厳しい状況に直面していたそうですね。
要因としてまず挙げられるのは、地域の医師不足が加速したこと。大学からの派遣に頼ることも難しくなりました。
ただ、外的な変化だけが苦しい状況を招いた理由ではなかったと思います。
1980年代半ばから国立病院と国立療養所の再編・合理化に向けた動きが本格化しましたが、「親方日の丸」の体質から抜け出せなかった部分があったのでしょう。ニーズを敏感に察知できず、時代に即した医療を提供できていなかったことも事実です。
前院長の吉武克宏先生と私が宇都宮病院に着任したのは2006年。病院機能の見直しと、「経営の責任は自分たちが担っている」という意識への転換を進めていきました。
吉武先生はJICA(国際協力機構)のプロジェクトメンバーとして開発途上国で診療に当たるなど、これまでの豊富な経験を生かしてリーダーシップを発揮されました。自分の周囲の人々を動かしていく上でどのようなことが大切なのか、私もさまざまなことを学ぶことができました。
―重視したのは。
慢性期医療に置いていた軸足を、2次救急の輪番病院に参加したり、「栃木県がん治療中核病院」に指定されたりすることで、さまざまな期待に応えられる病院へと移していきました。
そうして急性期医療から慢性呼吸器疾患、小児慢性疾患、神経難病、重症心身障害児(者)などの専門医療まで、ケアミックス病院へと変化を遂げていったのです。2008年以降は10年連続で黒字。国立病院機構141病院(2018年9月現在)でも上位の業務実績を維持できるようになりました。
黒字化を目指す上で、連携の強化は欠かせませんでした。地域の医療機関をはじめ、大学や教育機関、さらには地域の住民の方々と積極的に太いつながりを構築しました。連携の「本気度」を測る目安の一つとされる「逆紹介率」は90%を超えています。
幅広く要望に応えていけるよう、急性期病棟、障害者病棟、地域包括ケア病棟それぞれの柔軟な運用を心がけています。
特に、地域包括ケア病棟の活用に力を入れています。県内で最大の60床を有しており、地域や院内からスムーズに患者さんを受け入れ、80%を超える在宅復帰率を維持しています。
―次の計画について教えてください。
2014年に北病棟を新築し、地域包括ケアシステムの推進、地域医療構想を見据えた取り組みに注力してきました。
それをさらに加速させるために、新病棟の整備計画を進めています。急性期医療、慢性期医療の強化を図り、最寄りのJR岡本駅からのアクセス性の向上、災害にも強い病院を目指します。順調なら、2021年に完成予定です。
この新病棟の建設プロジェクトを含めて、私たちは「うつのみや共生の森」構想を描いています。当院は東京ドーム4個分に相当するおよそ20万平方㍍もの広大な敷地を所有しています。これを地域のみなさんのために、有効に使いたいと考えたのが出発点です。
すでに、敷地内にデイサービスやサービス付き高齢者向け住宅を誘致しており、少しずつ医療・介護サービスを集積した「共生の森」づくりが進んでいるところです。高齢者や障害者の方々が安心して暮らすことができ、自然にも親しむことができる。そんな、安らぎを届けられるエリアにすることが目標です。
独立行政法人国立病院機構 宇都宮病院
宇都宮市下岡本町2160
TEL:028-673-2111(代表)
http://un-hosp.jp/