心不全の地域でのケア 急がれる対策の確立
心臓外科の発展に大きく貢献した榊原仟・東京女子医科大学教授(当時)が、1977年に開設した循環器専門病院。豊富な実績への信頼は厚く、国内各地はもとより海外からも患者が訪れる。昨年、同院のトップに就いたのは磯部光章院長。病院が目指すものは。
―高い実績を維持。
心臓血管専門医、小児外科専門医など90人の医師がおり、成人の手術件数は年間800〜900例。狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患に対する冠動脈インターベンション治療件数は、年間で1000例ほどです。
また、カテーテルによる心臓弁膜症、大動脈弁狭窄症の治療「TAVI(経カテーテル大動脈弁植え込み術)」は、2018年だけでも、およそ240件を実施する見込みです。いずれも、国内上位の実績です。
年間の心臓手術が500件を超える小児の心臓血管外科も当院の強みとしています。小児循環器科、産婦人科と連携し、24時間、365日受け入れが可能。ジャテーン手術(大動脈スイッチ術)、複雑心奇形の手術などにも対応します。
―2014年に開設した産婦人科の現状は。
超音波診断装置など検査機器の進歩に伴い、胎児の段階で心疾患が疑われたり、発見されたりするケースが増えました。疾患が重度であることが分かった場合は、あらかじめ治療方針を計画し、出産後すぐに治療を開始します。
かつては技術的にかなり難しかったものの、今や幼少期に先天性心疾患の手術を受けて成人し、結婚、そして出産を希望する女性は決して珍しい存在ではなくなりました。
とはいえ、こうした母親たちの多くは、心機能に何らかの障害があることも事実です。そこで当院は「心臓の疾患があっても安心して出産できる分娩施設」を目指して産婦人科を開設。産婦人科医と循環器の専門医をはじめとする多職種がチームとなって、診療、治療を進めています。
全分娩数のうち、母体や胎児に何らかの循環器疾患が見られるケースは3分の2ほどを占めています。
残る3分の1は正常分娩です。高齢出産の増加なども影響し、胎児の先天異常のリスクに関する相談、超音波検査などのニーズが高まっています。
当院の特徴である高度な診断技術を生かして、地域に根付いた分娩施設として貢献していきたいと思っています。
―感じている課題は。
さまざまな治療の選択肢があり、「社会復帰を果たしたい」と願う若い方とは異なり、高齢者は「目標をどこに定めるか」が非常に難しく、また生活の状況も多様なのです。
例えば高齢の心不全患者に対して侵襲の大きい手術は選択肢に入りづらく、また、入退院を繰り返しやすいことでご家族の負担が大きくなる。ひいては、社会的な損失にもつながりかねません。
必要なのはキュアにも増してケアではないかと考えます。地域の中で安心して暮らしていく。そのための医療を提供していく体制も、社会的な仕組みも、まだ確立には至っていないのが現状です。
心疾患に特化した在宅ケア医の役割も大きくなっていくでしょう。厚労省の委託を受け、今年度から当院は日本循環器学会など関連6学会と共に、在宅医療における診療管理マニュアルの作成を進めています。
循環器疾患の緩和ケアなども盛り込んだ内容で、2021年度の完成を目指しています。
地域包括ケアシステム構築の中で、他の医療機関や職種とのつながりは欠かせないものとなりました。当院としても、より連携強化を進めるべく、近く在宅診療をサポートする部門を新設したいと考えています。
循環器領域の地域連携において、一つのモデルケースとなる。そんな取り組みに発展させたいですね。
公益財団法人 日本心臓血圧研究振興会附属 榊原記念病院
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