教訓を糧に組織の再生へ 働き方のモデルを示したい
病院長に就任したのは2015年4月。前年の医療事故の影響、大がかりな耐震工事といった逆風の中、田邉一成病院長は病院の再生に取り組んできた。改革の成果を示すための新病院の計画も、年内に発表される。女性医師の働き方にも注目が集まる今、「国内で唯一の女子医科大学」は何を見据えているのか。
―どのような改革を進めてきたのですか。
特定機能病院を取り消された当院にとって、やはり最優先すべきは医療安全に対する取り組みです。
働く人が増え、組織が拡大していく中で、いつしか「縦割り」の医療が当たり前になってしまっていた。それが医療事故を起こした大きな要因だと思います。
例えば、改革の一つとして病院内に点在していたICUの体制を抜本的に見直し、統合しました。2017年度に、ICU 18床とHCU 15床を統括して管理する「集中治療科」を開設。同科と各診療科の専門医、看護師、薬剤師など、多職種横断的なチームが集中治療・管理に取り組んでいます。
厳しい処分を受けた教訓から、2016年度に「医療安全科」を創設しました。この10月には、職員に向けた情報共有と研修を徹底していくために「医療安全啓発センター」の活動をスタートさせています。
2019年、国際的な医療機能評価であるJCIの認証取得を目指します。基準を満たす上で重視されるのが医療安全。第三者の目で評価してもらうことで私たちに何が足りないのか、次に何をすべきかが見えると思います。
―泌尿器科の主任教授としての立場から、医療の質や医師の働き方についてどう考えますか。
当泌尿器科の手術数は国内でも有数の実績です。腎移植については、八千代医療センターなど関連の4施設を含めると年間で200例近く。国内の10%ほどを東京女子医科大学のチームが担当している計算です。
10月、私が会長を務めた「第54回日本移植学会総会」でも議論しましたが、移植医療の「次の一手」をあらためて考えなければならない時代に入りました。
日本の「移植臓器生着率」は、世界トップレベルです。その成績は誇らしいことですが、移植を受けた患者さんが年齢を重ね、生活習慣病や妊孕(にんよう)性など、さまざまな課題に直面していることがクローズアップされています。
次世代による課題の解決につなげるためにも、新たなアプローチで移植医療を考えていく必要があることを伝えていかなければならないと考えています。
2006年、私が泌尿器科の主任教授に就任した際に定めた方針の一つは「遅くまで病院に残らない」ということ。これは現在、病院長として、病院全体の目標として掲げていることでもあります。
毎日100人ほどの医師が当直していたのを「外科系・内科系3人ずつの計6人」と大幅に仕組みを変えました。女性医師の育成を使命とする大学として結婚、出産、育児といったライフイベントとキャリア形成を両立できるシステムの「ひな形」を広めたいという思いがあります。
それは単に時間外労働を減らす、女性だけが働きやすい環境を目指すという意味ではありません。「女性も男性も疲弊せず同じように働ける」ことが働き方改革の本質だと思います。
―今後の予定などを教えてください。
新病院の基本計画を年内に公表できると思います。患者さんの尊厳を守り、医療安全を考え抜いた設計にするために、話し合いを進めています。
吉岡彌生先生は「婦人の社会的地位の向上」「女子医学教育の必要性」を信念に東京女子医科大学を創立されました。大学の理念であり、教育・研究・診療の基盤となる「至誠と愛」を具現化できる病院にしたいと思います。
東京女子医科大学病院
東京都新宿区河田町8-1
TEL:03-3353-8111(大代表)
http://www.twmu.ac.jp/info-twmu/