薬剤の進化がもたらす"生体防御"の今
講座が掲げるキーワードは「生体防御」。血液、呼吸器、膠原(こうげん)病の患者を対象に免疫機能が関係する白血病や肺がん、関節リウマチなどを専門としている。分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬、生物学的製剤。薬剤の進化に伴う治療の最前線は。野村昌作主任教授に聞く。
―治療の現状はいかがでしょうか。
当講座の血液グループでは、ほとんどすべての血液疾患に対応しています。柱は「白血病・多発性骨髄腫・悪性リンパ腫」です。
がんの治療法は著しい進化を遂げています。
「慢性骨髄性白血病(CML)」に対して「チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)」が登場。また、骨髄腫細胞の増殖によって造血が妨げられ、体にさまざまな症状が現れる「多発性骨髄腫」にも複数の分子標的薬が用いられています。
骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植の「造血幹細胞移植」にも積極的に取り組んでいます。他人から移植する同種造血幹細胞移植は平均して年間10例〜15例。2018年は、20例ほどに上る見込みです。
―同種移植の課題は。
八つの「HLA(ヒト白血球抗原)」が完全に一致していることが望ましい。しかし、その確率はかなり低いため、HLAがどれだけ一致しているか、その割合が重要なのです。当講座で行った同種移植は、最近10年間でおよそ150例です。
比較的、若い患者の場合は「ハプロ移植」と呼ばれる方法も選択肢の一つとして考えられます。六つのHLAのうち、半分程度が一致する血縁者をドナーとして、移植を実施する方法です。
移植による合併症を抑制する研究も進めています。抗がん剤と全身放射線治療による移植前処置で腫瘍細胞を小さくしておき、造血幹細胞が定着しやすい環境をつくります。
ただし、患者の血管内皮細胞もダメージを受けるため、移植片対宿主病、肝中心静脈閉塞症といった合併症が起こる可能性があります。そこで、薬剤による血管内皮細胞の保護を目的とした治験を進めているところです。現在、一定の手応えを得ています。
―呼吸器、膠原病領域は。
呼吸器は腫瘍内科と感染症内科のグループに分かれています。
腫瘍については肺がんを主なテーマとしています。肺がん治療の第一選択は手術療法で、手術が困難なケースでは、オプジーボなどの免疫チェックポイント阻害薬の使用を検討します。
呼吸器・腫瘍内科の倉田宝保診療教授が、世界規模の治験プロジェクトに参加するなど、豊富な経験を有していることも大きな強みだと思います。
感染症のグループでは気管支炎や肺炎、結核、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺気腫などを対象としています。また、院内感染の管理も担当しています。
リウマチ・膠原病グループでいえば、リウマチの新たな治療法が注目されています。従来、抗炎症作用のあるステロイド薬、非ステロイド抗炎症薬などが用いられてきました。
しかし、痛みが生じる部分だけに作用するのではなく、さまざまな副作用を起こすリスクがあることも課題でした。
関節リウマチの主な原因物質が、インターロイキン1、インターロイキン6などの「炎症性サイトカイン」であることが分かり、その働きを阻害し、関節の破壊を抑制する薬剤の開発が進みました。
そうして生まれた生物学的製剤(生体が作る物質を薬物として用いるもの)が広がっています。
リウマチ診療の質の底上げと病診連携の強化を目指し、ネットワークの構築や市民向け講座の開催などにも力を入れています。薬剤などの正しい情報を、関係者が共有する。円滑な治療に欠かせないポイントだと思います。
関西医科大学 内科学第一講座
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