進化する眼科手術 新たな治療法を創造したい
緑内障の治療法「チューブシャント手術」を得意とする島根大学医学部眼科学講座。4月にはこの手術を中心になって進めてきた谷戸正樹氏が教授に就任した。
―これまでの歩みを。
島根医科大学を卒業後、京都大学で基礎研究を開始し、同じ頃、千照会千原眼科医院にお世話になったのが大きな転機になりました。
同院の千原悦夫先生は緑内障治療で高名な方で、2000年前後の当時、国内でいち早く緑内障チューブシャント手術を導入していました。チューブシャント手術は、眼にたまる房水を抜くためのインプラントを挿入する術式。排水用のチューブを通して房水が流出することで、安定した効果が得られるのが特徴です。
一般的な手術「線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)」をしても眼圧が下がらない、または一度下がった眼圧が再び上がってきてしまった難治性の患者さんにも効果があります。
私は島根大学に戻った2年後の2008年、このチューブシャント手術を開始しました。この手術によって、失明に至らずにすむ患者さんが数多くいます。2012年度には保険収載もされました。
しかし、ナショナルデータベースの都道府県別算定回数を見るとチューブシャント手術の実施がほとんどない都道府県が相当数あります。全国に普及しているとは言えないのが現状です。
われわれは、チューブシャント手術において全国の大学の先駆けという自負があります。遠く北海道からこちらにいらっしゃる患者さんもいます。これからも教科書を執筆したり、講習会を開いたり、動画を制作したりといった啓発活動に取り組み、次の世代の医師たちに技術や知識を伝えていきたいと考えています。
―山陰の眼科事情を。
「眼科」と言っても、緑内障、網膜硝子体、角膜、ぶどう膜炎、小児など、専門は細分化されます。ジェネラリストはある程度そろっていますが、全分野の専門家がいるわけではない。これらの専門家を育成していくことが地域にとって重要なのではないかと思います。
眼科の疾患は年齢とともに出てくることが多いため、高齢化率の高い山陰では今後10年20年、ますます眼科医のニーズが高まっていくと予想しています。
スタッフに伝えていることの一つは、年齢や職業によって必要な視力は異なるということです。何が何でも、両目が見えなければならない、視力が1.0以上でなければならない、と固執するのではなく、患者さん本人の希望を聞きながら、柔軟な対応を心がけるよう話をしています。
―教授就任から半年。これからの目標を。
大学は臨床、研究、教育の場です。新しい治療法を創造する人を、一人でも多く輩出したいと思います。
そのために、若手には大学院に進学して研究に取り組むこと、海外に出ることを勧めたい。専門家の人脈ができることで研究が進めやすくなります。仮説を立て、実験をして検証する繰り返しが論理的な思考をつくりだすとも思います。
私はアメリカ留学時代の仲間たちと年に1回、必ず会っています。眼科に限らず手術法などは常に進歩しています。そのため常に知識のアップデートをしなければなりません。彼らとの交流も、知識や技術の更新に生かされています。
私は医師人生の最初の10 年は基礎研究に力を入れ、学位を取って留学をしました。次の10年、緑内障治療に取り組み、ごく早期の緑内障を1㎜未満の切開創から治療するきわめて低侵襲な術式を考案。専用器具も開発しました。
残りは、20年ほどでしょう。これまでとは違うテーマを見つけて深く掘り下げ、自分が納得できることをやりとげたいですね。
島根大学医学部眼科学講座
島根県出雲市塩冶町89-1
TEL:0853-23-2111(代表)
http://www.med.shimane-u.ac.jp/ ophthalmology/