"患者第一"を継承し 真に寄り添う医療を
高知県高岡郡に所在する大西病院は、今年70周年を迎えた。四万十町で唯一の慢性期病院はどんな歴史を歩んできたのか、これからどこを目指すのか。小倉英郎院長に聞いた。
―大西病院のこれまでと、地域医療の現状を。
当院は1948年、初代理事長の大西晃先生が、四万十町(旧窪川町)に19床の大西診療所として設立したのが始まり。「病院は患者のためにあり、患者を第一にする医療を」という強い思いを持って開業しました。
今でこそ「患者第一」という考え方が医療現場で当たり前になってきましたが、戦後間もない当時、まだまだ医師の立場が強い時代でしたから、貫くのは大変なことだったのではないでしょうか。いわゆる高知の「いごっそう」(※土佐弁で頑固で気骨のある男の意)だったのでしょうね。
1958年に病院認可をいただき、一般病床34床の大西病院となりました。そして初代理事長の基本精神を受け継ぎながら理事長、院長も代替わりを続け、私で5代目になります。
開設当時は一般病床でしたので、急性期医療を主に行っていましたが、1995年に介護老人保健施設「あけぼの」( 70床)を設立したのを皮切りに、高齢化という時代の流れに沿い、2003年には全97床のうち医療療養病床が77床、介護療養病床が20床の慢性期医療が主体の病院となりました。介護療養病床については制度廃止に伴い、現在、介護医療院への移行準備を進めているところです。
また、地域の病院として、高齢者医療・小児医療を中心に医療・介護サービスを提供しています。四万十町の診療所・病院と連携を組み、バランスのとれた医療提供体制になっていると思います。
―力を入れていることは。
患者さんに「食べていただく」ことに力を入れています。高知大学医学部歯科口腔外科の協力のもと、口腔機能・嚥下(えんげ)機能向上に全職種が協力して取り組んでいます。
他院や施設から転院してきた当初は経鼻栄養だった方が当院に移ってから1、2週間で口から食べられるようになるということも珍しくありません。それは嚥下体操や、マッサージ、口腔ケアなどを入念に行っている結果です。
また機能的なトレーニングだけではなく、食べる意欲を引き出すための食形態、介助の仕方や、食事の際の雰囲気づくりなど、さまざまなアプローチで患者さん自身の食べる力を引き出すことを心掛けています。
摂食機能を残していくことは、これからの慢性期医療の大きなテーマになるでしょう。高齢だからといって、あきらめてはいけないのです。
―今後について聞かせてください。
非常に難しいことではありますが、安易な治療法に流されず、患者さんが本当に望んでいることは何か、ということをくみ取って医療方針を立てていきたいと考えています。
認知症の方に、うまく言葉が通じないことがあります。それでは意思疎通は無理だと思われる方もいるかもしれません。
しかし当院ではさまざまなアプローチをしています。高齢で寝たきりの方に効果を実証することは難しいかもしれませんが、例えば音楽療法の一環として、歌を一緒に歌ってみる。歌うということは脳機能の向上にもつながります。根気よく続けていくうちに、なんとなく、「患者さんはこう思っているのではないか」ということが見えてくることがあります。
慢性期、高齢者医療の現場では、そういった「人と人とのつながり」から伝わってくるものが大切だと思います。患者さん一人ひとりに寄り添った医療を、これからも追求していきたい。そう考えています。
医療法人高幡会 大西病院
高知県高岡郡四万十町古市町6-12
TEL:0880-22-1191(代表)
http://www.oonishi-hp.or.jp/