DPAT活動の検証を、今後の地域連携につなげたい
広島県内に甚大な被害をもたらした「平成30年7月豪雨」(6月28日〜7月8日)。草津病院は被災地域などにおける精神科医療や精神保健活動を行う専門チーム「広島DPAT」としてスタッフを現地に派遣した。その活動と見えてきた課題や問題点などを、佐藤悟朗理事長・院長に聞いた。
受診継続と治療にどうつなげていくか
―病院や職員の被災状況について。
病院南側の斜面が崩れて、一部避難しましたが大事には至りませんでした。災害によりJRの多くの路線が不通になったこともあり、病院スタッフの中には帰宅できない者や通勤できない状況に陥ってしまう者もいました。そこでスタッフの人員確保のため、近隣のウイークリーマンションを手配し、対応しました。
―DPATとしての活動については。
7月7日、DPAT調整本部が県庁に設置され、活動が始まりました。
当院では被害を受けた安芸区にある浅田病院の患者4人を受け入れ。さらに、医師延べ18人を呉市天応、坂町小屋浦などの避難所に派遣しました。各避難所では保健師・医師らでチームを組み、地域でこれまでに把握している精神疾患患者だけでなく、引きこもりで精神疾患が疑われる方にも声をかけて回りました。
状況をお聞きして診察をしたり、受診できない患者さんに対して処方した薬を持参したりしました。
災害が起きると、自宅や家族のことが心配で、不安や眠れないといった症状を訴える方がいらっしゃいます。これは災害時のメンタルヘルスでいえば「軽症レベル」が多く、軽い抗不安薬などを処方することで対処できます。こういった方たちは、自分の精神不安に対して自覚があるので、災害状況が落ち着いても症状が収まらないようであれば、自ら近くのクリニックを受診することができます。
災害時以降の継続的な受診に結びつけることが重要
―活動を通して感じた問題点や課題は。
今回のDPAT活動で一番良かったと感じたのは、引きこもりの精神疾患患者、精神障害者に対する治療導入の機会を設けられたこと。一方、課題としては、今後、受診継続・治療へどうつなげていくかという点が見えてきました。
そのほかにも、接する医師が日替わりになってしまうことも、被災者の精神面のケアという意味では、あまり良い状態ではないと感じています。毎日、担当する医師などには前日の活動状況が引き継がれていたものの、不安を抱える方にとっては、「同じスタッフが顔を見せる」ということが、安心感につながる場合があるのです。
被災者の自宅を訪問する際には、事前に準備していた地図が役に立たない場合があるということも、活動してみてわかりました。
病院名を名乗り、近隣の方にたずねながらご自宅を探し当てましたが、精神科病院のスタッフが訪問したことで患者さんが周囲の目を気にし、「私は精神病院の世話になんかなっていない」と診察を拒否するケースもありました。精神疾患や精神障害がある方へは、特に配慮が必要だと痛感した事例です。
今回は、夏季の災害でしたので、患者の自宅などを訪問する医師・スタッフの熱中症対策も必要だと、あらためて感じましたね。
精神科領域も在宅へ包括ケア充実が急務
―今後の災害対策は。
精神疾患は継続的なサポートを必要とします。DPATの活動で支援した方をフォローし、災害時以降の継続的な受診に結びつけることが重要です。特に引きこもりなどでそれまで受診の機会がなかった方と接触できるという点では、ある意味"チャンス"。近隣のクリニックへの引き継ぎなど、システムの整備を進めるべきだと思っています。
現在、内科の高齢者医療領域では訪問診療が当たり前となってきていますが、精神科領域では訪問看護が動き出している程度で、まだまだ整っているとは言えません。訪問診療や往診の体制が整っていれば、災害時など緊急時の受診やその後の引き継ぎなどがスムーズに進むのではないかと考えています。精神科領域でも地域包括ケアの充実が急務ですね。
DPATの活動はまだ始まったばかりです。今回の災害を教訓に、もっと広域での災害発生を想定し、長期化した場合にも対応できるよう対策・支援体制について協議していきたいと思います。
医療法人社団更生会 草津病院
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