希少疾患の遺伝子変異と腎がんとの関係は?
初代・原田彰教授の時代から、積極的に県内各地の医療機関へ医局員を派遣。30近くの関連施設が一体となり、診療、教育、研究を推進している。6代目の矢尾正祐教授がライフワークとするのは「遺伝性の腎がん」。治療の最前線を聞く。
―力を入れているのは。
横浜市立大学附属病院ともう一つの大学附属病院である市民総合医療センター(横浜市南区)では、いずれも一般的な泌尿器科疾患を診療しつつ、当院ではがん、医療センターでは腎移植や小児泌尿器、男性不妊症など、それぞれに強みを持っています。
もともと医学部が設置されていた医療センターは1871年、日本で2番目にできた西洋式病院。第二次世界大戦などを経て、1947年に開設した当教室は神奈川県で最も古い泌尿器科学教室です。
私自身も含めて当教室では長く「遺伝性の腎がん」を中心的な研究テーマの一つとしてきました。現在、存在が知られている遺伝性の腎がんは10種類ほどです。
1990年から1993年にかけて、私はNCI(米国立がん研究所)に留学。遺伝子異常で起こる希少疾患「フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病」の疾患解析、VHL病がん抑制遺伝子の研究に取り組み、同疾患の原因遺伝子である「VHL遺伝子」を同定しました。
VHL病は家族性の腎がんを発症する疾患の一つです。VHLがん抑制遺伝子に生まれつき異常があることによって、腎臓の腫瘍をはじめ、小脳や脊髄といった中枢神経系、網膜の血管腫などができやすい体質になります。
―どのようなことが分かってきたのでしょうか。
帰国後、全国から症例を集めて調査したところ、VHL病の患者さんだけではなく、その体質のない一般の方にできた腎がんでも、実は非常に高い頻度でVHL遺伝子の変異が認められました。
たばこや生活習慣病など何らかの環境要因によって遺伝子が傷つき、VHL病と同様の変異が起こった。それが腫瘍化したのです。
腎がんの種類のうち、7〜8割と最も多くを占めるのは「淡明細胞型腎細胞がん」です。その6〜8割がVHL遺伝子の変異によるものと考えられています。
原因遺伝子の同定をきっかけとして、がん細胞にどのような変化が起こっているかが明らかになり、新たな治療薬の登場につながりました。
VHL遺伝子に傷があると、血管新生を促進するVEGF(血管内皮増殖因子)が過剰に発現。このシグナルを阻害する分子標的薬として、ネクサバール、スーテント、インライタ、ボトリエントの4剤を主に使用します。
免疫チェックポイント阻害剤の腎がんに対する効果も注目されています。副作用や価格などの課題はあるものの、2剤併用の治療もごく最近承認。効果がより高くなったと同時に副作用も強く出ますので、引き続き慎重に使用していくことになると思います。
―がん治療の選択肢が増えた現在、大切なのは。
例えば腫瘍が腎臓に限局していて小径であればダビンチで切除。遠隔転移なら薬剤での治療など、患者さんの全身状態や年齢、有する合併症、希望に適した治療法を考えることです。
副作用が強くても構わないという人もいれば、QОLを重視する方もいる。実際に治療が始まった後も要望を聞いた上で、薬剤の投与量を細かくコントロールするなど、コミュニケーションの中で対応していくことが求められます。
臨床を重ねる中でこそ自分に何が足りないのかが見えてきます。当教室は伝統的に、若い人の意欲を制限しません。VHL病、腎がんの研究が私のライフワークとなったのも先輩方の後押しがあったからです。新たな発見は診断や治療の発展につながる。目指すものは、ずっと変わりません。
横浜市立大学大学院医学研究科 泌尿器科学
横浜市金沢区福浦3-9
TEL:045-787-2800(代表)
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