患者の要望に応えるには一緒に考える過程が大事
内視鏡手術を強みに歴史を重ねてきた日本医科大学泌尿器科。積極的なロボット支援下手術の推進など先端的な医療を提供するとともに、「患者と一緒に考える過程が大事」と近藤幸尋教授は強調する。
―力を入れていることは。
1980年代から一貫して、内視鏡手術を中心とする低侵襲治療を推進してきました。
第3代教授の秋元成太先生(1982年〜2001年)の時代から続いている伝統です。内視鏡による前立腺肥大症に対する経尿道的前立腺切除術をはじめ、膀胱がんの治療、尿管鏡を用いた尿路結石の治療といった内視鏡手術を実施してきました。
1990年代後半に入ると腹腔鏡下手術を導入しました。2000年代の初めに、全国の大学病院でも早期に腹腔鏡下前立腺全摘除術を施行。近年は、手術支援ロボット「ダビンチ」による手術の割合も高まっています。
今後も引き続き、私たちの軸は内視鏡手術です。当講座の若い医師たちには早いタイミングで内視鏡に接する機会を設け、多くの経験を積んでもらう。そして、術者としてしっかりとした技術を身に付ける。そのための環境づくりに努めています。
―前立腺がん、膀胱がんの治療について。
前立腺がんの患者数は増加しており、その傾向は特に70歳以上の患者さんに顕著です。
毎年、当泌尿器科で新たに前立腺がんの治療を始める患者さんは、160人〜180人ほど。治療は手術、放射線治療、ホルモン療法の三つが中心です。前立腺全摘除術に関しては、全例でダビンチ手術を行っています。
放射線治療については「IMRT(強度変調放射線治療)」といった外照射療法のほか、「ブラキセラピー(密封小線源療法)」を実施しています。
膀胱がんは、膀胱筋層には浸潤していない「筋層非浸潤がん」、膀胱の筋肉に腫瘍が入り込んだ「浸潤がん」、そして他臓器に転移した「転移がん」の三つに分類されます。
当泌尿器科の治療の特徴としては、浸潤がんに対して膀胱全摘除術を実施しない「膀胱温存療法」を取り入れている点でしょう。
腫瘍が筋肉に浸潤しているケースでは、膀胱全摘除術が標準的な治療法とされています。
実は、内視鏡で腫瘍部分だけをきちんと切除することができれば、その予後は決して悪くはないのです。「がんのコントロール」の見通しがつくのであれば、やはり患者さんは、自分の膀胱をできるだけ残したいと望まれるでしょう。
患者さんのさまざまなニーズに応えることで、開業医の先生方からの紹介患者も増えています。がん治療においては「多彩な選択肢」をそろえておくことが大事だと思います。
―がんの治療に対する患者の意識は以前とは変わりましたか。
治療の選択肢がさまざまであるのは望ましいことばかりではなく、逆に患者さんを「悩ませてしまう」ことにもなっているのかもしれません。
若い患者さんなら、がんをしっかりと治して、社会に復帰する。そんな、明確な目標のもとに治療を進めることが多いでしょう。
高齢者のがん治療の場合は合併症なども多く、若い方とは選択肢の優先順位が大きく異なります。全員が、必ずしも社会復帰が最終目標というわけではありません。
現在のライフスタイルや人生観など、ニーズには個人の考え方が色濃く反映され、一人一人違うのです。
私たちはEBM(Evidence-Based Medicine)に基づく治療方針を提示するわけですが、さらに「治療を一緒に考える過程」を重視しています。患者さんやその家族と協調し、納得して治療を受けてもらう上で、大切なことだと思います。
日本医科大学大学院 泌尿器科学教室
東京都文京区千駄木1-1-5
TEL:03-3822-2131(代表)
https://www.nms.ac.jp/hosp/section/urology.html