増加傾向の女性泌尿器疾患 医師の"力"が発見のカギ
日本では、60歳以上の8割近くが何らかの排尿障害を抱えていると言われる。特に女性は尿道が短いため、尿もれや膀胱炎に悩む人が多いとされる。女性を取り巻く泌尿器疾患の現状について、スペシャリストである武井実根雄・原三信病院泌尿器科部長に話を聞いた。
―近年の女性泌尿器疾患の傾向を聞かせてください。
当院の泌尿器科には、過去30年間で約2万4000人に及ぶ膨大な検査件数のデータベースがあります。それによると、女性の患者さんの占める割合が確実に増えており、以前は男女比が4対1だったのが、現在は1対1。高齢者の増加や、女性の社会進出が原因となっているのではないかと考えられます。
女性泌尿器疾患のうち手術治療を行うものとして多いのは、「腹圧性尿失禁」「骨盤臓器脱」「間質性膀胱炎」です。前二者は出産と関連があります。特に「腹圧性尿失禁」は産後に多く経験されますが、その後いったん改善し、中年以降になって問題になります。また肥満も原因の一つです。
尿失禁の中の「腹圧性尿失禁」がある50代の患者さんの割合は、軽症の人を含むと2人に1人。60代になると「腹圧性」と「切迫性」が組み合わさった「混合性尿失禁」が増加します。
「骨盤臓器脱」はこの10年で低侵襲の手術治療が普及し、手術件数が5倍以上に増加。「間質性膀胱炎」は尿意切迫感や切迫性尿失禁の原因となる「過活動膀胱」と症状が似ており、頻尿が主訴の患者さんでは鑑別が問題になります。「膀胱炎」という言葉が入っており、膀胱の痛みを訴える方では症状が細菌性膀胱炎とよく似ていますが、細菌性膀胱炎と違って尿所見は正常の場合がほとんどです。
―貴院の治療の特徴は。
原三信病院では「尿失禁」「骨盤臓器脱」「間質性膀胱炎」を年間約100件ずつ手術しています。問診や尿検査、必要に応じて「尿流動態検査」などの他の検査と組み合わせて総合的に判断。「尿流動態検査」は広く導入されていなかった30年以上前に取り入れ、積極的に実施してきました。
泌尿器疾患は、50〜60代から一気に増え始めます。女性は子宮筋腫や子宮がんなどの婦人科疾患を併発している場合や、更年期ではホルモン環境の変化が症状に影響することもあり、婦人科との連携は必須です。
女性に限らず膀胱や尿道の働きは神経によってコントロールされていることから、神経疾患を有する方の下部尿路機能障害の精査やその原因としての神経疾患の精査などで、神経内科とも緊密に連携しています。関連各科と連携することで初めて本当に患者さんの問題を解決できることは少なくありません。そのため、定期的に合同でカンファレンスを開き、治療方針について意見交換をしています。
今後も地域の最終医療機関の役割を担うべく、まれな疾患も見逃さないようにきちんと診ていきたいですね。
泌尿器系の病気は、医師に相談することを「恥ずかしい」と思っている人が多い。それが受診を遅らせる最大の原因です。特に、女性は月経時にパッドを使うことに慣れているため、がまんしてしまう方もいます。しかし、尿漏れや頻尿などは仕事や旅行などの妨げになります。何事にも消極的になり、外出を控えてしまう患者さんもいました。
デリケートな話題なので、患者さんは自らの症状についてあまり話さないこともあります。ですから、医療者側がうまく聞き出したり、排尿についての問診票を使用したりといった工夫が必要でしょう。そうすれば、原因発見の確率も高まります。
排尿障害の裏に、初期段階の心不全や睡眠時無呼吸症候群といった重大な病気が隠れていることもあります。ですから、異常を感じたらすぐに来院いただけるように啓発活動も活発化したいですね。当院の泌尿器科には女性医師が3人いますので、女性も受診しやすいと思います。
医療法人 原三信病院
福岡市博多区大博町1-8
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