将来のスタンダードを創出する努力を惜しまない
診療科長として実質3年近く教室運営に携わり、今年7月、3代目教授に就任した。生まれも育ちも香川県。初となる香川大学出身教授として、実現していきたい未来とは。
―意気込みを。
地域に根付いた上で、グローバルに展開します。香川県民にとっての最後の砦(とりで)として腹を据え、最後まで責任を持って患者さんと向き合う覚悟です。
臨床の柱は、泌尿器のがんと腎移植。がんは、世界標準の医療ができることが強みです。放射線科や腫瘍内科などとのチームで、クオリティーの高い集学的治療を施行。保険診療となっているすべてのオプション治療を提供します。
腎移植は、当大学病院が県内最大の実施機関。腎臓内科と協力し、年間十数例ほど実施しています。膵腎同時移植にも取り組み、先日5例目を行いました。
私たちは臨床医です。ベッドサイドで患者さんの声を聞き、体温を感じる中で疑問や課題が出てくる。そこを出発点に、臨床試験や基礎研究につなげます。さらにエビデンスを創生して標準治療として確立。患者さんに還元していきます。最新版の「前立腺がん診療ガイドライン2016」も当大学主幹で作成しました。
研究テーマの一つに、前立腺がんの「監視療法」があります。前立腺がんの中で、本当に治療すべきがんだけを治療し、定期的な検査で様子をみる。あえて治療しないが、安全である。そんな治療戦略を確立したいのです。
監視療法は欧米ではメジャーですが、日本ではまだまだ。国民皆保険制度や出来高制などの理由はあるでしょう。でも無駄な治療を省けば患者は副作用に苦しまずにすみ、医療コストも下がります。この研究の中心が当大学です。40弱の施設が参加し検証する「PRIAS-JAPAN」の事務局をさせていただいています。
―人材育成への思いは。
知識の多寡と医者の能力とは関係ない。そこに気付かせることがスタートです。トラブルに見舞われてもなんとか正解にたどり着けるプロの医療者を育てたい。そのためにはどうすればいいのか、必死で考えているところです。
大切にしたいのは、個性や特性です。手術の腕だけではなく、臨床研究が得意、人間関係づくりが上手など、それぞれの長所を伸ばすことができれば、そのほうが本人にも社会にもメリットが大きいでしょう。
医師に必要なのは誠実さです。「これくらいいいかな」という小さなほころびが、大きなミスにつながることもある。日常生活からそれくらいの覚悟が必要だと、自分も含め、律しています。
―今後の展望は。
「人は力」、まずは人を増やしたい。多彩なサブスペシャルティがある泌尿器科の魅力をさらに学生に伝えていきます。
女性医師の需要も非常に高くなっています。しかし、学生たちはそのことをまだ十分に知りません。市中病院に今、女性医師が2人勤務し、女性専門の泌尿器科外来をしています。学生実習で女性医師の活躍の場を見てもらい、楽しさややりがいを伝えたいですね。
関連病院を増やしていきたいという思いもあります。香川大学の歴史は浅く、ここができるまで県内の病院は他県の大学から医師の派遣を受けてきました。いまだにその傾向はあります。
卒業生のライフプランを考えたとき、定年まで勤められる病院が県内にあるかどうかは重要です。それがないために県外に出ていくケースも少なくない。人を育て、就職先確保のため関連病院を増やす。それが香川の医療を守ることにつながります。
困難はありますが、10年、15年計画で進めます。そうしないと逆に未来はない。自分自身の使命だという思いで、取り組んでいきます。
香川大学医学部泌尿器科学講座
香川県木田郡三木町池戸1750-1
TEL:087-898-5111(代表)
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