情報共有と意欲の維持で急患を断らない病院へ
24時間365日、患者を受け入れ続けるのは容易なことではない。それを可能にした体制づくりやスタッフ育成について、20年にわたりこの課題に取り組んできた熊本医療センター循環器内科の藤本和輝部長に聞いた。
―救急を断らない体制はどのようにして実現できたのですか。
20年前に私が赴任してきた当時、救急外来はあったものの受け入れているのは年間でわずかに数例。カテーテル治療ができる医師がいない、十分な設備もマンパワーもない、という状況でした。
2000年にカテーテル専用室が2部屋になりました。さらに2009年に病院を新築移転した際、ICUを6床、CCU(冠疾患集中治療室)を4床に増やしたことで、受け入れる体制が整いました。
今では私の所属する循環器内科はレジデント2人、スタッフ4人で、年間約200人の急性心筋梗塞(AMI)に対応しています。
これまでに一度だけ、二つのカテーテル室がいっぱいで、3人目を受け入れらなかったことがあります。しかし、それ以外はいつ、どのような状態の患者であっても受け入れることができる病院へと生まれ変わりました。
最も大切なのはベッドコントロールです。救急隊からの急な連絡が入った際、医師の手は空いていたとしても、ベッドに空きがなければ受け入れようがありません。
そのため毎日朝8時と夕方5時、循環器内科の医師や看護師に、空きベッド数や今後の急患の対応方法などCCUの状況を確認し、対応を検討します。
もし受け入れられない場合は、ICUにも同様に確認。スタッフ同士で「もし今の状況で急患が入ってきたら」とシミュレーションをし、危機意識を共有。これらのコミュニケーションをとることで、「緊急の対処が緊急ではなくなる」と感じています。
また、救急隊員に安心して搬送先に選んでもらえる病院であることも重要です。そのために、救急隊員には患者の予後を報告します。
たとえば当科には心肺停止で運び込まれてくる患者が年間で数十人いますが、その方の意識が戻った時に、「先日搬送していただいた患者の意識が戻りました」と、連絡します。これは紹介していただいた開業医に対しても同様です。
さらに、搬送した隊員にカテーテル手術を見学してもらい、治療の様子を見てもらうこともあります。これらの取り組みを地道に続けることで、「この病院なら」と搬送先に選んでもらえるようになってきたと感じています。
―スタッフのモチベーション維持に必要なことは。
医師が疲弊(ひへい)してしまわないように気をつけています。当科では、外来で担当した医師が主治医になっています。すると、一人の医師ばかりに重症患者が集中し、夜中、頻繁に病院へと呼び出されるということが起きてしまいました。
そこで今は、主治医がいなくても当直の医師が対応できるよう、患者の状態の引き継ぎをしっかりと行うようにしました。主治医であっても、なるべく勤務時間外に呼び出さないことを心がけています。
さらに、通常、主治医が行う「看取(みと)り」も、その場にいる医師が担当します。患者の家族には前もって「いつ亡くなってもおかしくない状況」だと伝えておくことで、看取りが主治医でないことを事前に理解いただくようにしました。
また、スタッフを積極的に学会や講習会に参加させています。医療知識、技術の向上が一番の目的ですが、診療に関わらない日を設けることも、一つの狙いです。
医師については、月1回は宿直も急患のための待機もない土日をつくるよう、スケジュールを調整しています。緊迫した命のやりとりがあるからこそ、自分の心と体を整えられる時間が重要ではないでしょうか。
国立病院機構熊本医療センター 循環器内科
熊本市中央区二の丸1-5
TEL:096-353-6501(代表)
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