人間の"すべて"を診て苦痛の正体に迫る
心療内科が専門領域とする「心身医学」が米国から日本に初めて渡ったのは1959年。心理・社会的因子と身体疾患の関係は複雑化が進む。課題の本質を見極めるための医療とはー。
―診療科の役割は。
近年は心療内科を標榜するクリニックも増え、患者さんが早期に医療を受けられる「すそ野」が広がりました。ただ、もともと精神科を専門とする先生が診療していることも多いので違いが分かりづらく、やや混乱を生んでいるのも事実かもしれませんね。
私たち心療内科が主に扱うのは、あくまで「心身症」という身体的な疾患です。
例えば「胃が痛い」と訴える患者さんを検査して潰瘍が見つかる。「この原因があるから痛い」ことが明らかな器質的な疾患です。
器質的な問題はないものの、腹痛や頭痛といった症状に悩まされている人がたくさんいます。
過敏性腸症候群の方を検査しても器質的病変は発見できず身体的には「異常なし」。原因はよく分からないが体の働きに問題がある「機能的な疾患」も心身症には多数見られるのです。
誰しも、強いストレスによって体調を崩してしまうことはあり得るでしょう。単に「お腹が痛いから痛み止め」「不安だから抗不安薬」では、根本的な問題の解決には至りません。
人間は「こころ」と「からだ」のどちらかだけで生きているわけではない。一方の状態が悪くなれば、もう一方にも影響が及びます。心身の相関に基づき「人間全体」を捉えて診療するのが心療内科です。
―力を入れている点を。
私の専門分野の一つは「サイコオンコロジー(精神腫瘍学)」。当科ではがん医療、緩和ケアに力を入れています。
病気になれば身体的な苦痛だけでなく、不安など精神的な苦痛に直面することになります。また、家族や職場との関係性も変化するでしょうし、「自分の人生とは」などと深く考え込んでしまうこともある。
こうした「スピリチュアルな苦痛」をすべて含んだ結果が患者さんの「全人的苦痛」となって現れます。トータルに対峙(たいじ)しなければ苦痛を和らげることはできないのです。
コンサルテーション・リエゾンの取り組みも活発です。「狭心症で一家の大黒柱が倒れた」というケースなら、循環器内科とのチームで患者さんやご家族を支えます。
また、医療の細分化が進んだ今、「どの診療科に診てもらえばいいのか」「何度か診てもらったが改善しない」という患者さんが少なくありません。そこで私たちが患者さんの全体像を評価し、必要に応じて専門科につなぐ。そんな役割も担っています。
病気ではなく「病気の人そのもの」を診る心身医学はプライマリ・ケアの実践に貢献するでしょうし、臓器移植など高度な医療の場でも必要とされるでしょう。あらゆる医学の基礎となるものだと考えます。
3年間限定で当講座に入局し、地域に戻って「サイコネフロロジー(腎臓精神医学)」を役立てている腎臓内科の先生などもいます。キャリアを重ねた人に学んでもらう場を提供しているのも当講座の特徴です。
―今後の予定は。
2019年11月15日〜17日、日本における「心身医学60年」の節目として「第2回日本心身医学関連学会合同集会」(大阪市)が開催。関連学会の一つ「第24回日本心療内科学会総会・学術大会」の会長を務めます。
心療内科の講座をもつ大学は全国に九つ。専門医はまだ少なく、育成機関も十分に整備されていません。学会などの場を活用して、心療内科が広がっていくよう努めていきたいですね。
遺伝子治療など、医療の最先端は「狭く深く」のイメージでしょう。私は「広がり続けていく」心身医学は、対極にある最先端医療だと思うのです。これからの医療が目指す、一つの形ではないでしょうか。
近畿大学医学部内科学教室心療内科部門
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