キュアできない疾患をケアするために
2016年に老年病・循環器・神経内科学講座から単独診療科として独立した高知大学医学部脳神経内科。急速に高齢化が進む高知で、今、求められている脳神経内科医の役割とは―。
―単独診療科となって2年、脳神経内科の現状に変わりはありましたか。
今年、新たに2人の脳神経内科専門医が誕生しました。また2年目の研修医が1人入局をしてくれましたし、他にも入局を検討している方がいる。やっと少しずつ人の輪が広がり始めたかな、と感じています。
しかしまだまだ、脳神経内科医不足の現状が変わったというわけではありません。脳神経内科はどちらかといえば取っつきにくく、特殊な病気を診ている診療科だと思われがちです。しかし、実のところそんなことはない。パーキンソン病や脊髄小脳変性症などの難病だけでなく、脳卒中、てんかん、認知症、頭痛といった一般の外来にも多い病気も、脳神経内科の領域なのです。
しかも高齢化が進む社会で、需要というのは非常に大きくなっています。ただ、問題なのは、県下の中核病院に常勤の脳神経内科専門医がほとんどいないということです。非常勤の医師さえもいない病院が多くあります。県内の脳神経内科専門医の数は25人で高齢化も進んでいます。今は若い専門医を育成していくことが急務になっています。
―専門医を増やすための対策はありますか。
なんといってもまず、研修医や学生に興味を持ってもらうことが大事です。
日本神経学会は脳神経内科に興味を持ってもらうきっかけになればと、医学生対象のサマーキャンプキャンプを開催。脳神経内科のセミナーやハンズオンセミナー、そして講義や講演などを行っています。
先日、香川県の琴平町で行われたサマーキャンプには、全国から60人ほどが参加しました。県西部で唯一の脳神経内科専門医として診療所を営まれている、小笠原望先生をお招きし、へき地における脳神経内科医の役割などについての講演をしていただきました。
先生は、一般内科的な診療をしながら、いかに特異性を発揮していくか。また、最初の診療の段階での脳神経内科の果たす役割がどんなに重要であるか、といったことを話されました。
例えば患者がめまいの症状を訴えてくる。それが、脱水症状によるものなのか、耳鼻科的な発作なのか、また脳の血流が悪いためなのか―。そういったことを入り口の段階できちっと診断できなければ、重大な疾患を見逃してしまうこともありうるということを、丁寧に伝えてくださったのです。
参加した学生たちにとっても非常にインパクトのあるお話だったのではないでしょうか。
―今後の取り組みや展望を聞かせてください。
高度先進医療の取り組みとしては、脳外科と協力をし、iPS細胞の移植による治療を進めていきたいと思っています。また発症4.5時間以内の場合に有効とされている脳梗塞に対してのt-PA静注による超急性期血栓溶解療法で、4.5時間以上の症例にもアプローチするということも行っています。今はマンパワーが足りないので多くのことに取り組むのは難しいのですが、少しずつ広げていきたいと考えています。
そして、これからはCure(治療)できない疾患をCare(管理)していくことにも力を入れたいと考えています。
ケアのためには、ベッドサイドでの神経学的診察が非常に大事で、きちんとトレーニングされた脳神経内科医が数多く必要になります。一人前になるには多くの症例を体験しなければいけないし、広い分野のスキルも要求されます。育成には、とても時間がかかるのですが、一人でも多くの専門医を育てていきたい。最終的な目標はそこに尽きますね。
高知大学医学部脳神経内科学教室
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