誰もが安心して暮らせる町をつくろう
精神病床の長期入院患者の地域移行は進むのか。根強い偏見をどう取り払っていくか―。課題は多いが、「誰もが安心して暮らせる地域をつくっていきたい」と加藤仁理事長は語る。
―精神科医療を取り巻く状況をどう感じていますか。
私が幼かったころは、今で言う特別支援学級の設置があまり進んでいませんでした。掃除当番、夏休みの宿題。さまざまな場面で、障害のある子どもをみんなで支えながら学校生活を送っていたように記憶しています。
地域に目を向ければ統合失調症の人がいて、日が落ちる時刻になると声をかけて帰宅を促す。このように障害のある人はとても身近な存在だったのです。
ただ、やはり精神科病院に対する世間のイメージは決していいとは言えませんでした。さらに特別支援学級の設置が普及していくにつれて、ますます精神疾患を「特別なもの」として見る風潮が広がってしまったように思います。
―どのような病院を目指してきたのでしょうか。
当院は1966年開院。現在の病床数は242床で「重度慢性期病棟」「精神科急性期治療病棟」「特殊疾患病棟」などで構成しています。病棟の機能を分化することで、多岐にわたる精神疾患に対応。「どんな患者さんも断らない」を方針とした医療を心がけています。
特徴の一つは、広大な敷地面積と豊かな自然に囲まれたロケーションです。この恵まれた環境の中で、患者さんも職員も、ゆったりとした気持ちで日々を過ごしています。
私がこれまでに関わってきた医療現場では、ときに職員と患者さんとのコミュニケーションがうまくいっていない場面も目にしてきました。その経験を踏まえて、大仲会では「優しい医療と楽しい職場」をモットーに掲げた組織づくりに取り組んでいます。
では、どうすれば実現できるのか。医療従事者は医療のプロフェッショナルではあるものの、普段、組織のあり方や経営に関してしっかりと学ぶ機会はほとんどありません。
そこで月に1度、診療報酬や自治体の動き、「法人という仕組みそのもの」を学び、また院内のさまざまな職種の意見を吸い上げるための経営戦略会議を開いています。
院内に設置した「意見箱」で患者さんやご家族の意見や要望も集めています。こうして積み上げた院内外の声をよりよい病院づくりに生かしています。
大仲会では毎年、文化祭や夏祭りなどを開催。地域の方々に、当院のことをもっと知ってもらいたいと始めたものです。近年、カウンセリングを受ける若い女性が増えるなど、少しずつ理解されつつあるのではないかと思います。
―これからの課題は。
国は精神病床に1年以上入院している長期入院患者について、地域移行を促すために「2014年度末から2020年度末までに最大3万9000人減」という目標を設定しています。
長期入院の患者さんにとって病院は家、スタッフは家族のような存在とも言えます。退院後の生活は、患者さんにとって大きなストレスとなってのしかかるのではないかと、懸念する声もあります。
当院では退院前に、病棟看護師が患者さんと共に退院先を訪問することで不安の軽減に努めています。また、退院後は法人内の訪問看護ステーションが継続的に生活を支援します。
国は共同生活のためのグループホームなどの整備を検討していますが、地域住民などの反対もあって、設置はなかなか進んでいません。地域で受け入れるための環境が整うのは、まだ先になりそうです。
大仲会では2025年を目指し、認知症の高齢者向けグループホームの設置を進めていきます。
いつか、誰もが安心して暮らせる町に。それが私たちの願いです。
医療法人大仲会 大仲さつき病院
三重県員弁郡東員町穴太2000
TEL:0594-76-5511(代表)
http://www.ohnaka-h.jp/