"一生の健康"の中で生殖医療を考えている
昨年11月の新病棟完成で埼玉県東部地区最大の病院となった「獨協医科大学埼玉医療センター(旧:獨協医科大学越谷病院)」。相次ぐ新部門開設、進む既存棟のリニューアル。4月、変貌する同センターのトップに就いたのは、男性不妊症治療の第一人者でもある岡田弘病院長だ。
―医療機能が大きく向上。
手術室を11室から22室に拡大し、今年度の手術件数は1万2000件ほどを予定しています。今後フル稼働すれば年間1万5000件〜1万6000件と、全国有数の症例数に達すると考えています。
前病院長の脳神経外科・兵頭明夫特任教授がセンター長を務める「血管内治療センター」や、ダビンチ手術を主体とした「低侵襲治療センター」など新たに設置した部門をはじめ、さまざまな診療科が横断的に協力して治療に当たっていることが特徴です。
移植センター、バイオクリーンルームを整備したことで昨年12月、私の長年の目標でもあった腎移植をスタートすることができました。肝移植の開始に向けた準備も進めており、将来的には肺移植にも対応していく構想です。
強みの一つであるリハビリ領域では小児リハビリが始まりました。7月、特殊な器具を備えたリハビリテーション室が完成。発達障害の子どもたちの支援に力を入れています。これからの時代に求められる医療を届ける。新病棟はその思いを象徴しています。
―リプロダクションセンターの取り組みは。
国内の不妊に悩むカップルは6組に1組ほどと言われています。晩婚化で出産年齢が上昇し、経済状況などを反映して生涯未婚率が高まっている現在、不妊治療、少子化への対策は国の大きな課題です。
40年近く男性不妊症治療に携わってきた中で、不妊の原因の半数程度は男性側にある可能性が高いことも少しずつ認知されるようになりました。女性と男性の両方を診療し、体外受精が可能な施設をつくりたい。ずっと考えてきた計画がようやく実現したのは2015年のことです。
当院のリプロダクションセンターでは専任の泌尿器科、産婦人科の医師による夫婦そろっての不妊治療が可能です。大学病院にクリニックが組み込まれているイメージですね。
―治療の現状は。
まだ原因は明らかになっていないのですが、50年ほど前の精液検査の結果と比較すると、精子の数や運動率が低下していることは事実です。
要因として考えられるのは日本人の食生活の変化です。特にホルモンの生成に関係すると言われる亜鉛の不足は不妊症の男性の6割ほどに見られ、食品添加物との関連も指摘されています。ただ、日本人ほど多様な種類の食事をとる国民は世界的にもまれ。実証は難しいのです。
妊娠の成立には、精子の数や運動率が重要だと考えられてきました。ところが近年、私が進めている研究で興味深いことがわかりました。従来の検査では「問題なし」だが、DNAを調べると「壊れている」精子が存在します。形状や動きだけでは判別できません。実は「精子の質」が大切だったのですね。
酸化ストレスの増加、内分泌障害、喫煙、肥満などが複合原因となって精子の質の低下を招いています。
不妊治療に取り組んでも妊娠できないカップルは7割を超えるとも言われています。センターが開設時から重視しているのは「その人たちにどこまで寄り添うことができるか」。
子どもはできなかったけれど、自分の健康に目が向くようになった。「あのときセンターに通って良かった」と数十年後に感じてもらう。不妊治療を「一生」を見すえた医療につなげる「リプロダクティブヘルスプロモーション」を、さらに推進したいと思います。
獨協医科大学埼玉医療センター
埼玉県越谷市南越谷2-1-50
TEL:048-965-1111(代表)
http://www.dokkyomed.ac.jp/hosp-k.html