独自性につながる"芽"が出てきたと思う
「まだまだ大きく変わっていく」―。約2500の病院が加入する全日本病院協会(全日病)の会長を務め、中医協(中央社会保険医療協議会)委員として診療報酬の議論に深く関わる猪口雄二氏。医療機関を取り巻く現状を、あらためて整理する。
―医療・介護報酬同時改定からおよそ5カ月。
ほとんどの病院が対応済みでしょう。ただ、今回の改定で「ひと区切り」という印象を持たれることも多いのですが、そんなことはありません。まだ「2025年に向けた積み残し」があり、さまざまな面で変わっていくと思います。
例えば中医協では、入院医療に関する分科会を再編しました。評価体系の見直しがなされた重症度、医療・看護必要度などの評価基準を検証し、次の改定まで継続して議論していく必要があるためです。
入院医療の機能は「急性期医療」(7対1、10対1を再編・統合)と「長期療養」( 20対1、25対1を再編・統合)、そして「その中間」と大別されました。
地域医療構想を踏まえた分類になっているものの、佐賀県など一部を除いて取り組みはまだ活発ではありません。現状は検討段階で国が言及していたような「寄り添う」改定にはなっていないと思います。
―注目すべき点は。
改定において大きかったのは、段階的な評価が設定された急性期一般入院基本料です。今回は「現行の7対1相当」という言葉として残りましたが、将来的に急性期は「10対1をベース」に評価していくことになるでしょう。
従来の7対1と10対1の間に「入院料1〜7」の選択肢ができたことで、各医療機関は入院患者の重症度などに応じた人員配置の自由度が高まりました。
また、複数の非常勤のリハビリスタッフを「常勤」として換算できるようになるなど、専従要件の緩和もポイントです。それぞれの実情に合わせて独自の方向性を打ち出せる「芽」が出てきたということですね。
医療事務のIT化や救急医療の評価など引き続き整理すべきことは多く、さらに働き方改革があり、消費税率の引き上げも控えています。診療報酬に限らず問題は山積している。医療関係者は動向を注視しておかなければなりません。
― 10月(6、7日)、学会長を務める「第60回全日本病院学会イン東京」はどのような内容になりますか。
すでに経済成長のピークが過ぎ、人口減に入った「成熟期」の日本で地域や病院のあり方はどう変わっていくのかを、みんなで考えたいと思います。
診療報酬・介護報酬、働き方改革、介護医療院、ロボットやIоT、AI。
建築家の視点で語る「地域包括ケアを含めた町づくり」や、東京パラリンピックに向けた「障がい者スポーツと医療の関わり」など「成熟社会における医・食・住」というテーマのもと幅広いプログラムを用意しています。
―今年度、全日病による新たな事業も始まりました。
一つは「総合医育成プログラム」で、かなり大きな反響があります。全日病の会員施設に勤務する、すでに一定のキャリアを有する医師が対象。土日を中心に開講する教育研修を受講してもらい、「働きながら時間をかけて診療の幅を広げていく」ことができます。
特徴は技術的なスキルだけではなく、院内外で多職種の連携をうまく引っ張っていくリーダーシップや人材育成の力といった「ノンテクニカルスキル」を重視していることです。
総合診療専門医の制度はスタートしたばかりですし、医師不足はなかなか解消できていません。特に中小規模の病院にとって「広く診ることのできる医師」は不可欠。土台がある人が学ぶのですから修得も早いでしょう。そんな医師を増やすことで医療者の意識、働き方を変えていく後押しになればと思います。
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