三本の矢となり糖尿病予防を推進
在米日系人医学調査のさらなる発展と、糖尿病予防の啓発を目的として開設された「糖尿病・生活習慣病予防医学 寄附講座」。講座の概要、広島県の糖尿病治療の現状と今後について米田真康教授に聞いた。
―講座の概要を。
本学の内科学第二(現:分子内科学)で行われていた「在米日系人医学調査」の継承と発展を目的として、今年4月に「糖尿病・生活習慣病予防医学 寄附講座」が開設されました。
明治時代に始まった国の移民政策。広島県が海外移住政策に積極的だったこともあり、日本人移民で最も多かったのが、広島県の出身者でした。
日本から米国に移住し、生活習慣が欧米化していった結果起こった、日系移民の疾病構造の変化について、「これは日本の近未来図ではないか」と考えました。
そこで1970年にハワイ島のヒロとコナで、1978年にはロサンゼルスで、「在米日系人医学調査」を開始しました。
調査の結果、在米日系人では高動物性脂肪、高単純糖質、低複合糖質という欧米型の食形態へと変化したことで、肥満者の割合やメタボリックシンドローム、糖尿病の有病率が高率になること。
また、生活習慣病が増えることで動脈硬化が進み、虚血性心疾患で亡くなる人が増加することが明らかになりました。
調査開始から約50年が経ち、その間に日本国内でも食生活の欧米化が確実に進みました。今、改めて本調査の意義を考え、継続することの必要性を見極めるとともに、得られた知見を学会や論文での発表にとどめることなく、広島県民の糖尿病対策に生かすことを本講座では目指しています。
―糖尿病対策の動きは。
広島大学、広島県と広島市、広島県医師会で構成する「広島県地域保健対策協議会(地対協)」で糖尿病対策に関する事案を検討しています。
広島県は糖尿病診療を専門とする医師の数が少なく、それも広島県西部に偏在しています。尾道市や三原市がある尾三医療圏では人口10万人に対して1.6人、福山府中医療圏では1.3人と非常に不足しているのが現状。専門医が不足している地域の病院すべてに広島大学から専門医を派遣することはできません。
地対協では今年4月、広島県の七つの医療圏にそれぞれ糖尿病の拠点病院・中核病院を定めました。糖尿病専門医を集約して医師の疲弊を防ぎ、各医療圏における糖尿病専門医療の継続を目的としたものです。
糖尿病患者の急性増悪や合併症発症などがあれば、地域の拠点病院・中核病院が24時間体制で開業医や他の病院をバックアップ。各医療圏、医師会において糖尿病診療の地域連携の必要性や、仕組みの情報共有について話し合いを進めていきたいと思います。
拠点病院・中核病院のマンパワーを維持し、さらに数を増やしていくために、糖尿病医療の魅力を発信し、若手医師の育成に力を入れていきます。また、地域の診療レベルの向上を図るべく、拠点病院・中核病院が中心となった糖尿病の症例検討会や勉強会も予定しています。
―今後は。
「拠点・中核病院が遠い」という糖尿病患者さんに対してや在宅診療の場面でインターネットなどを通じて開業医と糖尿病専門医を結びつけるICTやIоTを糖尿病医療で大いに活用し、遠隔医療へと発展させていくべきでしょう。糖尿病医療に精通した医療者がいない地域では、AIが患者さんに合った栄養管理や運動プログラムを提案してくれる。将来的にはそんなシステムの構築も考えています。
検査を受けない、あるいは病院を受診しない方を医療のレールに乗せることは容易ではなく、地道な啓発活動を続けるのみだと思うのです。毛利元就の言った「三本の矢」のように広島大学、広島県と広島市の行政、広島県医師会が結束し、広島の人々のために糖尿病予防の啓発に尽力していきたいと思います。
広島大学大学院医歯薬保健学研究科 糖尿病・生活習慣病予防医学 寄附講座
広島市南区霞1-2-3
TEL:082-257-5555(代表)
https://www.hiroshima-u.ac.jp/bhs/research/lab/other/Preventive_Medicine_for_Diabetes_and_Lifestyle-related_Diseases