原点の地に戻った今何ができるかを考え抜く
地域の基幹病院である倉敷中央病院のグループ病院「倉敷リバーサイド病院」。4月に就任した土井修院長は「倉敷は私にとって医師の原点の地」と語る。
― 19年ぶりに倉敷に戻られたそうですね。
京都大学を卒業後、1976年に研修医として倉敷中央病院に着任しました。当初はがんの免疫療法を専門にしようと考えていたのですが、臨床経験を重ねる中でがん患者さんに対する循環器、呼吸器の管理の重要性に気づき、関心が高まりました。
倉敷中央病院ではそのころ、大学の1学年先輩である光藤和明先生らが循環器グループを立ち上げていました。カテーテル治療など新たな治療法を積極的に推進する様子を見て、「ここで循環器領域を学んでみよう」と考えたのです。
ただ、免疫療法への興味を失ったわけではありませんでした。そんなとき、同じアパートに住んでいた光藤先生にこんな言葉をかけられたのです。「医師が救わなければならないのは、がん患者だけではないのではないですか」。
循環器のチームに加わってみませんか―。誘いを受けたことをきっかけに、私の気持ちは固まりました。
狭心症や心筋梗塞に対して有効な治療法がなかった時代。何とか助けたいという一心でカテーテル治療に力を注ぎましたが、信頼を得る技術となるには多くの時間が必要でした。期待が集まる一方で、しばしばカテーテル治療に取り組む医療機関で発生した医療事故には、社会の厳しい目が向けられました。
それでも私たちは、カテーテル治療が循環器治療のあり方を変えると考えていました。「絶対に事故を起こさない」を合言葉に、放射線機器の扱いなどに細心の注意を払いながら、技術を磨いていきました。
光藤先生は後に台湾の李登輝元総統の治療を担当するなど、日本のカテーテル治療をけん引する存在になりました。循環器病センター確立への創成期を共に乗り切ったことが、私の医師としての原点になりました。
―病院の特徴は。
強みの一つである整形外科では関節疾患の治療に力を入れています。特に人工関節の領域では最小侵襲手術(MIS)を実施するなど、早期の回復を目指した医療に力を注いでおり、手術件数も高い実績を維持しています。
中四国地方においてトップクラスの病床数、手術実績などを維持する倉敷中央病院との法人内連携も円滑です。急性期の高度な医療が必要な場合には同院に紹介します。4月の電子カルテ導入を機に、情報共有もより強固なものになりました。「PACS(医療用画像管理システム)」の活用で、両院の医師が遠隔で協力して治療を進めることも可能です。
―今後の方針など。
当院がカバーしているエリアは倉敷市の南西部。旧川崎製鉄(現:JFEスチール)の水島製鉄所があり、その周辺には社員の住宅が建ち並んでいます。
この地域も住民の高齢化が進んでいます。当院の機能は「急性期と在宅の中間」で、いわば橋渡し役です。倉敷市は高度急性期医療に関しては充実しています。ただ急性期後の患者さんや、慢性期の患者さんを診る環境はまだ十分には整っていないと感じます。
当院に求められているのは診断の正確性をさらに引き上げ、高度な治療が必要な場合は倉敷中央病院とスムーズに連携すること。そして、在宅復帰に向けて受け入れた患者さんをしっかりと治療すること。一連の流れを見据えた医療を提供できる連携病院の役割を果たしたいと考えています。
循環器疾患をテーマにした院内講演会を企画して最新の治療技術を学ぶ機会を提供するなど、「超高齢社会に必要な医療とは何か」を職員に伝えています。私の経験を倉敷に還元していけたらうれしいですね。
公益財団法人大原記念倉敷中央医療機構 倉敷リバーサイド病院
岡山県倉敷市鶴の浦2-6-11
TEL:086-448-1111(代表)
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