新たな研究領域も始動 夢は国内トップ
1964年に設立し、長年にわたってがんの診断、治療、予防の質の向上に取り組んできた愛知県がんセンター。併設の研究所では新たに分子遺伝学やシステム解析学といった部門を設置。「ゲノム医療」に関連する領域の強化も進んでいる。木下平総長に今後の展望を聞いた。
―施設の特徴は。
現在、当センターは名古屋市にある愛知県がんセンター中央病院と研究所、岡崎市にある愛知病院(2019年4月に岡崎市民病院に移管)の3組織で構成しています。
県立としては初めての「病院と研究所を持つがん専門医療機関」として開設しました。臨床と研究を両輪に全国有数の治験の実績を持ち、都道府県がん診療連携拠点病院である中央病院は県全域のがん医療の中心を担い、特定機能病院を目指しています。
2018年度に入り、がんゲノム医療をより強力に推し進める体制づくりに着手しています。
研究所のがん予防研究チームでは、ここ20年ほどの間、がん患者とそうでない人の血液サンプルを用いて、遺伝的要因や生活習慣などのさまざまな側面を考慮して「どのようなタイプの人がどんながんになりやすいのか」を調査。予防法の確立に努めてきました。蓄積してきたこれらの膨大なデータを活用し、がん医療へのさらなる還元を目指したいと考えています。
そこで、新たな研究分野として治療マーカーや治療法の開発などを目的とする「分子遺伝学」や、遺伝子変化を精度の高い診断・治療につなげる「個別化医療トランスレーショナルリサーチ(TR)」のほか、「システム解析学」「分子診断TR」を設置しました。
これまでは外部に委託していた塩基配列の解読なども、今後は当研究所内で完結できる環境を整えていきます。当センターが強みとしている「橋渡し研究」も活発化するでしょう。
―遺伝子検査の現状は。
将来的な発症リスクの検査は、中央病院の遺伝カウンセリング外来である「リスク評価センター」が担います。遺伝を専門とする医師やカウンセラーが遺伝性のがんに関する情報を提供し、ご家族の相談などにも対応します。
かつて遺伝情報の研究には、個人情報保護の観点などから倫理的、法律的に越えることが難しいハードルがありました。
しかし近年、研究倫理指針の議論や改正が進み、また女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが遺伝的な要因が関与するとされるHBOC(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)を公表するなど、遺伝子検査の重要性が認知され関心も高まりました。
当センターとしてもがんに関わる未知の遺伝子異常の発見に向けた研究を進めるとともに、分子標的薬などの新たな創薬の可能性なども探っていきます。
―今後は。
愛知県がんセンターはこうして「先進的な医療」に特化することで差別化を図ってきました。新しいプロジェクトなどを積極的に推進していくためにも、将来的には当センターの独立行政法人化が必要ではないかと考えます。
組織づくりにおいて最も大事なのは「人」です。2012年、総長に就任した際に注力したのは人材の確保です。
ただ増員するのではなく当センターに対する「愛」を持った職員を増やしたいと考えました。そのために働く環境をどう整備するか、どんな組織を目指すべきか、さまざまな立場の職員が議論に参加。いくつかの意見は実現することができました。みんなで話し合い「つくっていく」という経験を得たことが、現在も大きなモチベーションになっていると思います。
10年後の夢は、当センターを「がんの研究・診療で日本一の施設にする」―。着実に近づいていきたいと考えています。
愛知県がんセンター
名古屋市千種区鹿子殿1-1
TEL:052-762-6111(代表)
https://www.pref.aichi.jp/cancer-center/