ウイルス性肝炎だけではない 脂肪肝も肝がんの原因に
ウイルス性肝炎に起因して発症する肝がんは減少傾向にある。しかし、アルコールの過剰摂取や肥満など、生活習慣が原因になるケースが増加傾向だ。30年以上肝がんの治療に携わってきた佐々木裕教授に、肝がんの現状と今後について聞いた。
―肝臓がんの現状を教えてください。
現在、肝がんのおよそ7割はB型あるいはC型ウイルス性肝疾患に起因するものです。日本では110万人から140万人がB型、190万人から230万人がC型肝炎ウイルスに感染していると言われています。
ただ、ウイルス性肝疾患に関しては、治療薬が進歩してきました。C型では直接作用型抗ウイルス薬(DAAs)が開発され、肝臓からウイルスを高率に除去できるようになりました。肝がんの中で、ウイルスが背景にあるものの割合は、減少しつつあります。
一方で、生活習慣が背景にある肝がんは増加傾向です。「脂肪肝」が進んで肝硬変になり、肝がんへと進展していくのです。
脂肪肝には、「アルコール性脂肪肝」と「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」があります。アルコール性脂肪肝の原因は飲酒。大量に摂取すると肝臓がアルコールの分解にかかりきりになり、脂肪の代謝が後回しになって、中性脂肪が肝臓に蓄積されます。アルコールの代謝中間産物であるアセトアルデヒドも肝臓にダメージを与えます。
「NAFLD」はさらに二つに分けられ、一つは脂肪がたまっている状態の「単純性脂肪肝(NAFL)」。もう一つが「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」です。
特に問題なのは、NASHのほうで、放置しておくと肝硬変、肝がんへと移行します。NAFLから10〜20%の人がNASHへと変化しますが、理由はまだはっきりと分かっていません。
NAFLDの主な原因は生活習慣病です。肥満や糖尿病の患者さんは発症のリスクが高まります。治療には運動や食生活の改善、NASHに関しては薬物治療も必要です。
―脂肪肝の患者数はどれくらいになるのでしょうか。
日本で、アルコールによる脂肪肝の患者はおよそ250万人、NAFLDは1000万人以上いると推計されています。つまり、それだけ肝がんの予備群がいるということです。
ウイルス性肝炎の患者さんは、自身が肝がんを発症するリスクの高さを知っています。しかし、脂肪肝の人は肝疾患の知識も自覚症状もない場合が多く、気づかずに肝がんへと進行してしまうケースが多いのです。
糖尿病内科など他の診療科の医師と連携して、検査を勧めたり、セミナーを開催したりしています。
―今後の肝がん治療は。
肝がんの再発率は、仮に肝切除術やラジオ波凝固法などの根治的治療を行っても15%〜20%です。肝硬変を経てがんを発症するので、見つかった一つ、二つのがんを治療しても、他の部分にがんの「芽」が残っていて再発します。世界中で「芽」に対する治療薬の研究が進んでいるところです。
また、肝がんの成長を特異的に阻害する分子標的治療薬や身体の免疫機能を回復させる免疫チェックポイント阻害剤など、新薬が登場し、治療の幅が広がっています。
同じ肝臓にあるがん組織でも、クローンによって薬の効きに違いが出ます。薬の数や種類を変えたり、手術と組み合わせたりしながら、治療していく必要があります。
再発率の高い肝がんにおいて何より重要なのは、「発症させない」ことです。脂肪肝の患者さんもそうでない人も、自分の肝臓の機能を気にかけ、定期的に検査を受ける。そんな社会になるよう、肝がんを含む肝疾患に関する最新の情報を、他の診療領域の先生方や一般市民に伝えていきたいと思います。
熊本大学大学院生命科学研究部 消化器内科学
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