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肝がんの治療成績で全国平均を大きく上回る久留米大学医学部外科学講座。肝胆膵外科部門を統括する奥田康司教授は、「チームでポジティブサムを目指すべき」と語る。その言葉の意味は。
―進行肝がんに対する積極的な治療で知られています。
巨大化したものや、多発性のもの、門脈などにまで浸潤したもの...。肝がんの中には切除もラジオ波焼灼術などの局所療法もできない症例が多くあり、これまでは抗がん剤などで進行を抑える治療が主流でした。
われわれは、まず肝動注化学療法、肝動脈塞栓術などでがんを小さくしてから手術する「ダウンステージング後の切除」に積極的に取り組んでいます。化学療法が効いて手術で腫瘍をすべて取り切れると判断した場合で、なおかつ肝臓の予備機能から5年生存率が4割を超えると考えられるケースに対してのみ、実施しています。
切除をしなければ5年生存率は1割を切るぐらいのステージです。これまで腫瘍を可能な限り切除する「減量手術」にも取り組んできましたが5年生存率は16.5%。術後1〜2年で亡くなる方も多くいました。
化学療法を施してから根治手術をした場合の5年生存率は61.3%。70代後半の方で、術後8年余り存命された例もあります。
術後の再発の状況にも大きな違いがみられています。術前に化学療法をしなかった場合は、87.5%の方が再発。化学療法後に手術した場合の再発率は30%です。
このダウンステージング後の切除で欠かせないのが「New FP治療」です。当大学の消化器内科が開発した方法で、抗がん剤の「シスプラチン」をリピオドールと混ぜ、カテーテルを用いて肝動脈から腫瘍に注入。その後、「5-FU」を持続注入し、これを数回繰り返します。
今までの抗がん剤治療と比べると奏効率が高く、およそ7割。がんが完全に消えたケースもありました。転移性肝がんも、化学療法で腫瘍を小さくしてから切除することで、予後がよくなります。
―心がけていることは。
当大学の切除した全肝がん患者の5年生存率は73%。全国のデータを大きく上回っています。
ステージ4の患者さんで見ると、2002〜2009年に39.8%だったのが、2010〜2016年では47.7%。厳しい状況に代わりはありませんが、少しずつ上向いてきています。
ただ、この結果を外科の力だけで出せているわけではありません。放射線科、消化器内科と力を合わせて、「総合力」で生み出してきたものです。
私たちの大学では毎週合同でカンファレンスをしています。集学的治療の必要性が共有されていて、常時コミュニケーションをとる土壌がある。「良い治療」のためには、他の診療科が持っている方法を含めて肝がん治療をトータルで知っておく必要があります。
一つではなく複数の治療を組み合わせること、チーム医療を完成させていくこと。経済用語でいえば二者択一の「ゼロサム競争」ではなく、メリットを組み合わせてより良い方法を生み出していく「ポジティブサム」を目指すべきだと思います。
―課題は。
「施設間格差」です。厚生労働省のデータでは、症例数20以下の病院では肝切除の手術死亡のリスクが高い。医師を含め医療者が十分に経験を積むことが、リスクを低減するためには必要で、技術の均等化を図ることも重要です。
「効率」という意味で病院の集約化も必要です。外科医の減少、偏在が進む中では、医師や機器をハイボリュームセンターに集めることが必須だと考えます。
医師の教育という面でも、病院の集約化ができれば何人もの医師が十分な経験を積むことができます。
患者さんが迷ったり困ったりしないよう、地域の行政と手を組んで、格差是正に取り組んでいくべき時期に入っているのではないでしょうか。
久留米大学医学部外科学講座 肝胆膵外科部門
福岡県久留米市旭町67
TEL:0942-35-3311(代表)
http://www.kurume-geka.com/clinical/shokaki/kantansui.html