公的保険の適用範囲拡大 広がり見せる重粒子線治療
各地で新施設の稼働が予定されるなど、普及が進む重粒子線治療。九州国際重粒子線がん治療センター(愛称:サガハイマット)」の塩山善之センター長に現状を聞いた。
―重粒子線治療の現状を
現在、治療を受けられる施設は全国に5カ所あります。「サガハイマット」は2013年に全国で4番目に誕生しました。九州で重粒子線による治療が受けられるのはここだけです。
さらに大阪と山形で稼働が予定されていて、普及が進んでいると言えるでしょう。
4月には公的保険の適用範囲が広がりました。従来の切除できない骨軟部腫瘍に加えて、頭頸部がんの一部と前立腺がんが追加されたのです。保険適用範囲が変わってから受診される患者さんは明らかに増加しており、当センターの月の治療患者数は50〜60人から70〜80人に増えました。
―二つのがんの追加理由は。
公的保険の適用とされるには先進医療として治療してきた期間の実績が認められる必要があります。
頭頸部がんは、手術が難しい肉腫のみが対象でしたが、エックス線では治療困難な組織型や部位に対する治療成績が評価された結果、口腔・咽喉頭の扁平上皮がんを除く頭頸部がんにも保険適用が拡大されることになりました。
前立腺がん(限局性)が選ばれた理由は、国内2700人を超える症例に対する良好な治療成績が示されたことに加え、副作用が他の放射線療法よりも低頻度であることが示唆されたことによります。さらに、多くの患者さんが重粒子線治療を選択され治療を受けているという現実があることも要因と思われます。 当センターでも開院して5年の間に1700人を超える前立腺がんの患者さん(全体の63%)を治療してきました。
―重粒子線治療の利点は。
メリットは切開しない治療法のため、外科手術と比べると体への負担が少ないことです。高齢者や合併症のある患者さんなど体力のない方も治療できます。
従来の放射線治療に比べて優れている点は、がん細胞を殺傷する力が強く、集中した線量を照射できるので、短期間での治療が可能となることです。例えば、前立腺がんの治療だと12回の照射、3週間で終了です。治療時間も20分と短く、家庭や仕事など日々の生活に与える影響が少ないのもメリットです。 また呼吸で動く肺や肝臓、膵臓などのがんに対して「呼吸同期照射」をすることで治療が可能なことも利点と言えます。
デメリットの一つは、治療を受けられる施設が少ないことが挙げられます。当センターには九州一円から患者さんがお見えになります。もう一点は、対応できないがんもあるということです。意思とは関係なく不随意に動く胃や小腸・大腸の場合、がんの狙い撃ちの困難さや消化管壁への影響も懸念され、適応とされていません。また、白血病などの血液のがん、広く転移のあるがんも重粒子線治療を用いることはできません。
―治療成績は。
臓器やがんの組織型によって多少異なりますが、治療対象となるがんの90%ほどで照射した病巣をうまく制御できています。病巣が二つ以上の場合は他病院と連携して、切除しやすい部位を手術で、難しい部位は重粒子線で治療することもあります。目に見えない潜在的ながんへ対応するために、前立腺がんではホルモン療法、膵臓がんなどでは抗がん剤治療との併用も行われています。今後は、免疫療法を含めた薬物療法との組み合わせなど新たな併用療法についても検討されることが望まれます。
公的保険の適用範囲が広がったとは言え、大部分のがんはまだ対象外です。保険適用されるには、重粒子線の有用性や副作用などの正確なデータを集める必要があります。2年前からは全国の重粒子線施設が連携して、患者さんの予後も含めた治療実績の収集(全国登録)や多施設共同臨床試験が行われています。これからも医師としてがんの治療に全力を注ぎながら、重粒子線治療の更なる普及・発展に取り組んでいきたいと思います。
公益財団法人 佐賀国際重粒子線がん治療財団 九州国際重粒子線がん治療センター
佐賀県鳥栖市原古賀町3049
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