効果はより高く副作用はより少なく
重粒子線がん治療施設、がんワクチンセンター、漢方サポートセンター...。神奈川県立がんセンターは、手術、放射線治療、化学療法の三大療法に限らず、まさに「あらゆる手段」でがんに挑み、新たな治療法開発のための研究にも取り組んでいる。
―患者数が右肩上がりで増えています。
理由の一つは、治験を受ける患者さんの増加です。当院の使命の一つが、がん専門病院として、有効な治療法や検査方法のエビデンスを確立していくこと。多施設共同研究の浸透や、IRBの普及もあり、開業の先生だけでなく、地域の中核病院からも、患者さんの紹介が多くなっています。
もう一つの理由は、クリニカルパスの導入です。診断から退院までのスケジュールが定型化され、効率的に進むようになりました。入院期間の短縮や病床の回転率アップにもなり、より多くの方を受け入れられています。
今、年間の新規患者数はおよそ6000人。部位別に見ると肺が最も多く、乳房、胃と続きます。「あの病院に紹介すれば、良い治療があるのではないか」と周囲の医師の方々に期待される病院になってきているという実感がありますし、そのために努力を続けていきたい思っています。
―重粒子線治療施設ができてから2年です。
2015年12月に治療を開始した当センターの「i-ROCK」は世界で初めて「がん専門病院」に付設された重粒子線治療施設です。
重粒子線による治療を受ける患者さんの数は保険適用の拡大もあって年々増え、2017年度は年間200人超。設置から2018年7月末までの治療人数は426人になりました。
現在、対象としているのは、保険適用となる前立腺、頭頸部、骨軟部のがんのほか、肝細胞がん、Ⅰ期肺がん、局所進行膵がん。当院で最も患者数が多い肺がんなどにも適用範囲が広がっていくよう、エビデンスを積んでいきたいと考えています。
―がんワクチンセンター、漢方サポートセンターも特徴的な取り組みですね。
2014年に「がんワクチンセンター」を開設しました。手術、化学療法、放射線治療に続く「第4の治療」とも言われる免疫療法による診療と、臨床研究を進めています。
当初は主に進行・再発がんの患者さんにペプチドワクチンを投与して、効果を検証してきましたが、期待したほどの結果は得られませんでした。そこで、今は、手術によって肺がんを切除した患者さんに術後一定期間ペプチドワクチンを投与し、投与しなかった場合との再発率を比較する試験を進めています。
近年、この分野は目覚ましい進歩を遂げています。有名なところで言えば、肺がん治療に使われる免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ(ニボルマブ)」。「あと数カ月の命」と言われた人の一部が、1年、2年と非常に元気に過ごすことができるようになってきています。
「漢方サポートセンター」は、がんの根治を目指すというよりも、支持療法が中心です。抗がん剤の副作用に、しびれなどがあります。漢方薬を使うと、そういった神経症状のコントロールがうまくいく場合があるのです。
漢方薬には多くの種類がありますが、まだエビデンスが十分にありません。日々の臨床の中で、検証を進めています。
今、黎明期のゲノム医療も、これから盛んになっていきます。中核病院の一つである国立がんセンター中央病院の連携病院として、臨床研究を担っていくことになるでしょう。
「患者さんのために、より効果があり、副作用が少ない治療を」。これからもその思いで、研究、診療、教育に取り組んでいきたいと思います。
地方独立行政法人神奈川県立病院機構 神奈川県立がんセンター
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