てんかんに関する正しい知識を広げるために
2013年に設立された鹿児島大学病院てんかんセンター。精神科や内科、脳神経内科などさまざまな診療科で診ていたてんかん患者を一本化して、高度な医療を提供している。設立から5年経ち、鹿児島県民の病気への意識や知識はどう変わっていったのか。小児科助教でもある丸山慎介副センター長に聞いた。
―主な役割を。
鹿児島県内でてんかんに関する講座を年に1回開催しています。講座は、周辺住民だけでなく、その地域の医療従事者や患者さんも対象にしています。
病気に対する理解が進んでいないため、病気があるから仕事ができない、運転できないと周囲に言われてしまう患者さんがいたり、患者さん自身や家族もそう思い込んでしまったり。しかし、多くの人は症状を薬でコントロールでき、飲み続ければ発作は治まります。
間違った知識を正し、正確な知識、最前線の医療の情報を提供する。それが、当センターの「治療」以外の大きな役割です。
センターには年間およそ120人の新患が紹介されてきます。てんかんは長く付き合っていく必要がある病気です。毎年多くの患者さんを一つの病院で診ていくことは難しい。そこで地域の医師との連携が重要になります。
難治な方の治療や外科治療はこのセンターで実施し、症状の落ち着いている患者さんはお住まいの地域の医師にお願いする。定期的な検査や急な治療が必要になった場合は早急に対応することを伝え、チームで診ていく体制を整えています。
―小児てんかんの現状について教えてください。
鹿児島県の小児てんかんの患者数はほぼ横ばいです。小児の場合は腫瘍や感染症などが引き金になるよりも、先天的に「素因」があって突然発症してしまうことが多い。こういうてんかんは3歳から小学校高学年にかけて発症率が高い傾向にありますが、8〜9割が完治します。
薬の処方には特に気を付けています。例えば、眠気や集中力の低下といった副作用があれば、学業に影響する。長期間の服用によって、問題が出る可能性もあるでしょう。副作用が少なく、一人ひとりに合う抗てんかん薬の処方を心がけています。
小児の範囲で特に力を入れているのが、乳児期発症の難治てんかんや発達への影響が現れている患者へのてんかん外科治療です。
乳児期は脳の発達に重要な時期です。発作が止まらない場合は、放っておくと脳の発達に影響が出ます。最悪の場合、てんかん性脳症を発症し、寝たきりになることもあるのです。
これまで患者さんは外科治療ができる東京や長崎の病院で手術を受けていました。当センターができたことで、鹿児島県内の患者さんの早期治療が可能になったのは県内の患者さんにとって大きなメリット。離島からの来院者もいます。
―今後の展望は。
てんかんの患者は社会的なサポートがとても大切です。例えば、子どもの場合、「学校で発作が起こったらどうすればいいのか」「この運動や活動はさせていいのか」といった相談に乗ることができる人がいれば教職員の先生からの理解もスムーズに得られると思います。
大人になっていくにつれて、今度は、心理的な問題を抱える人が増えてきます。発作があることで引っ込み思案になってしまっていたり、馬鹿にされるのではないかとためらったり。周囲が心配して「運転はしないほうがいい」などと言うことで、「自分は何もできない」と思い込んでしまうこともあります。
これから、精神科やカウンセラーのような人が身近に寄り添ってくれる環境を整備していきたい。センターを拠点に、受け皿のネットワークをつくりたいと夢を描いています。
鹿児島大学病院 てんかんセンター
鹿児島市桜ケ丘8-35-1
TEL:099-275-5111(代表)
http://www.kufm.kagoshima-u.ac.jp/~ns/epilepsy/