誰もが自分らしく生き最期を迎えるそのために
一般財団法人「日本尊厳死協会」の宮崎県の会長も務めている東秀史・メディカルシティ東部病院病院長。患者さん本位の「尊厳死」と、そのために必要だとする「オーダーメード診療」とは。
―東病院長が考える「尊厳死」とは。
患者さんの意志を尊重した上で迎える、必然性のある安らかな死。それを「尊厳死」と呼んでいます。終末期の医療における治療に関する選択権を、患者さんが主体的に持っている状態であることが大切です。
ただし、どんな病態の患者さんであろうと、まずは全力で最善の治療をする。治療を続けながら「死を目前にした不可逆的な病状時に、どんな選択をしたいか」について時間をかけて患者さんと話し合い、希望を確認します。そして、最後のときに、その希望を最大限尊重するのが「尊厳死」だと考えています。
尊厳死のためには治療の最初から最期のときまで、同じ主治医が携わることが重要です。例えば、がんの患者さんには治療を重ね、完治する方が多くいる一方で、転移や再発などで亡くなる方も一定数います。後者の場合、自身の治療の経過や病状などから「死」に向かうということを次第に理解する。「生きること」「死ぬこと」の狭間で気持ちも大きく揺れます。
主治医は治療と並行して患者さんやご家族の感情や考えの揺れも理解していきます。医師と患者さんにある一体感が生まれると、生に対する思いが共有でき、死に向かう意志が、お互いに揺らがなくなる。そういった強い信頼関係を構築するためには、ある程度の長い期間が必要で、そのためにも主治医は同じであったほうがよいと思うのです。
私たちは、この病院で手術をした患者さんにずっと寄り添う姿勢を大事にしています。その一つが、誰でも利用できる「24時間電話相談サービス」です。自宅で療養していて体調の悪化などがあれば電話をもらい、必要に応じて入院を受け入れます。
需要は1日に2件程度。症状としては緊急性がなくても、患者さんやご家族に安心感や休養を提供する必要があると判断した場合には、短期間の入院を促す場合もあります。
一人ひとりの思いと病態をしっかりと把握・尊重したオーダーメードの医療が、今、求められているのだと思っています。
―オーダーメード診療のための貴院の取り組みは。
まずは、遠方へ行かなくても地元で治療できる医療体制づくりが必要です。今年5月、地域で不足している脊椎・脊髄の手術もできる経験豊富な専門医を招き、「脳神経外科」を開設しました。
在宅での看護の需要も伸びていると感じます。そこで、近い将来の訪問看護サービス導入に向け、看護部長とともに検討を急いでいます。
また、終末期に医療設備の整った病院内で家族に囲まれながら最期を迎えられる「緩和ケア病棟」の整備も検討しています。高度な医療の提供とともに、自宅に近い環境を病院が演出できればと考えています。
訪問看護や緩和ケアは、患者さん本位の尊厳死に向けた体制づくりにも大きく影響するため、特に力を入れていきたい分野です。
―宮崎県内での尊厳死の認知度をどう感じますか。
残念ながら、かなり低い。原因の一つは、宮崎県の中心メンバーに医師がいなかったことで、医療機関へのアピールが遅れたことだと考えています。
尊厳死は、「死」に比重を置いたものではなく、健やかに生き、安らかな最期を迎える「生」に重きをおいたものであるということ。全国平均よりも高齢化率が高い宮崎だからこそ考えるべき患者の人権活動であること。この二つを、今後、地域の医師のみなさんに訴え、啓発を進めていきたいと思います。
医療法人 宏仁会 メディカルシティ東部病院
宮崎県都城市立野町3633-1
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