最初のトビラは開いた!GID治療の何が変わるか
4月、性同一性障害(GID)に対する性別適合手術が保険適用となった。適用されるのはGID学会が定める基準をクリアした施設に限定。岡山大学病院など6病院が認定されている。「混乱はあったが大きな前進」ー。岡山大学病院ジェンダーセンターの難波祐三郎教授を訪ねた。
―認定施設は増えますか。
保険適用にはさまざまな意味があると思います。金銭的な事情で諦めていた患者さんにも手術を受ける機会が広がり、実施をためらっていた医療機関が性別適合手術に踏み出すきっかけになるでしょう。
私が考える最も大きな変化は「世の中の目線」です。ジェンダー関連疾患(GAD)は特殊な領域であるという捉え方が根強く、いまだ偏見も残っている。これから他の疾患と並列に語られるようになり、「性別適合手術を実施しているのが当たり前」の時代に向かうのではないかと思います。
岡山大学が掲げる「SDGs(エスディージーズ: 持続可能な世界を実現するための国際目標)」の一つに当ジェンダーセンターの取り組みである「GADに対する包括的治療・研究・教育の国内拠点構築」も含まれています。
当院の形成外科、精神科神経科、産科婦人科、泌尿器科の4診療科が連携し、光生病院(岡山市)など関連医療機関ともしっかりとタッグを組んでジェンダーセンターを組織しているのは、国内ではここだけと言っていいと思います。
当センターがGID学会認定医を養成するトレーニング施設として全国から広く医師を受け入れ、各地の拠点の構築につなげていきたい。現在も、沖縄県立中部病院の施設認定取得に向けてサポートしているほか、認定医を目指す他の医療機関の医師たちがここで研修を積んでいます。
―ホルモン療法は保険適用の対象から外れました。
昨年、「どうやら手術が保険適用になりそうだ」との情報が広がり、今年1月から3月に予定していた手術が相次いでキャンセル。4月以降の予約が埋まったのですが、「ホルモン療法が先行している場合は保険適用が認められない」ことが明らかになると、再び多くの方が手術を取りやめる判断をされました。
理由は「健康保険による診療と自己負担による診療の混合診療は認められない」という原則があるためです。ところが精神科のガイドラインにもあるように、性別適合手術は精巣や卵巣を摘出する前にホルモン療法をテストしておくのが一般的です。例えばアレルギー体質の方などは、睾丸は摘出したものの女性ホルモンを投与できない。すると更年期障害のような症状になってしまうのです。
形成外科、精神神経、産科婦人科、泌尿器科の各学会やGID学会では、長年にわたり手術とホルモン療法をワンセットとする保険適用を国に呼びかけてきました。今回、手術が認められたのは本当に大きな前進。ホルモン療法の課題がクリアになったとき、初めてすべてのトビラが開いたと言えます。
―2019年3月23日・24日、会長を務める「GID学会第21回研究大会・総会」が岡山で開催。
主題は「ザ・ネクスト・ステップ・イン・ザ・ネクスト・ディケイド〜法律、保険、そしてその先へ〜」。
声帯の手術専門の機関として世界的にも知られる韓国のイェソン音声センターの医師など、海外のゲストも登壇します。「次の10年」をみんなで考えたいと思います。
私はやはり、患者さんにとって今よりも住みよい世界を夢見たい。今、FTМ(女性から男性に移行する・した人)の子宮をМTF(男性から女性に移行する・した人)に移植して妊娠・出産に至るまでを最終目標とする研究を進めています。
法的、倫理的にもまだハードルが高いのですが、議論の広がりに期待したいと思っています。
岡山大学病院ジェンダーセンター
岡山市北区鹿田町2-5-1
TEL:086-223-7151(代表)
http://www.okayama-u.ac.jp/ user/genderc1/