アレルギーマーチを防ぐ "生後4カ月"までのケアとは
国内外でアレルギー症状を起こす子どもは増加の一途だと言われる。「第55回日本小児アレルギー学会学術大会」( 10月20日・21日、岡山市)会長も務める池田政憲教授は「スキンケアの重要性が高まっている」と語る。
―子どもたちの体質は以前とは変わったのですか。
アレルギー疾患の発症経験がある学童期の子どもは5割を超えているとも言われています。
食物アレルギーが増加した原因は長らく「卵や牛乳などたんぱく質の摂取量が増えたから」などと信じられてきました。しかし、ここ10年ほどの間に考え方は180度転換したと言っていいと思います。
ある生後4カ月の乳児は鶏卵、牛乳、小麦に強いアレルギー反応を示し、アトピー性皮膚炎を合併。まだ離乳食を口にする前の時期で卵も小麦も食べていないのに、なぜ食物アレルギーなのか?
大きな因子の一つとして明らかになったのは「経皮感作」という現象です。有名な事例として小麦成分を含んだ石鹸の使用者が小麦アレルギーを発症。アナフィラキシー反応を起こし危険な状態に陥った方もいました。いわば同様の状況に置かれている子どもたちが増えているのです。
調べてみると、実は子どもたちが生活している環境から卵や牛乳、大豆などのたんぱく質が検出されるケースは多いのです。
アトピー性皮膚炎で炎症を起こしている肌に付着すると、異物として認識したアレルゲンを排除するための「IgE抗体」が体内でつくられ活性化します。
抗体の攻撃の対象が卵であれば卵アレルギーになり、離乳食として摂取したときに発症する。成長に伴い次々とアレルギーを発症する「アレルギーマーチ」は、生後数カ月にして始まるのです。
―予防策は。
一般的にIgE抗体をつくる力が強い人ほどアレルギー反応が激しく現れます。重要なのは「IgE抗体がたくさんつくられる前」に、肌を保湿してできるだけきれいに整えていくこと。それを長期に維持することです。
現在は生後5〜6カ月での離乳食のスタートが推奨されていますが、以前はもっと早く、生後4カ月ごろが一般的でした。近年の研究によると、アトピー性皮膚炎で食物アレルギーを合併しやすいと思われる子どもは生後4カ月ごろまでにしっかりと肌をケアしておき、微量の卵を計画的に摂取していくことが望ましいと報告されています。
1歳時点で食物アレルギーを発症する確率が大幅に下がるとされ、アトピー性皮膚炎の発症率を50%ほどに抑制できるという海外の研究成果も発表されています。スキンケアによるアトピー性皮膚炎の抑制が本当に食物アレルギー低減につながるのか。エビデンスの確立に向けて世界中で積極的な研究が進んでいます。
―大会テーマは「小児アレルギー学の進歩と未来への展望ー発症予防・治療・予後向上と多職種連携ー」。
最新の研究成果を広く共有し、実臨床に生かすことで、子どもたちのより良い未来につなげるー。国内外のゲストによる講演をはじめ、さまざまなプログラムを用意しています。
アレルギー疾患の対応は医療機関、家庭、学校、行政などの連携が大切。医療者と患者さん、チーム医療におけるコミュニケーションのヒントになればと、明治大学文学部の齋藤孝先生に「語彙力」を主題に講演を依頼しています。また特別企画では、ご自身も喘息のタレント・優木まおみさんと私が対談形式で「幼少期から治療を継続することの重要性」を伝えたいと思います。
子どもたちには輝く未来が待っています。その可能性が疾患で閉ざされることがないように、医療者が小児アレルギー領域の今をしっかりと受け止め、議論を深める。学会がその後押しになればと思います。
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科小児急性疾患学講座
岡山市北区鹿田町2-5-1
TEL:086-223-7151(代表)
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